アメリカのボストン郊外、ケープコッドという大統領の保養地として知られる街にあるテラダインという会社を訪問しました。

迎えてくれたVice PresidentのBob Melvin氏は、トヨタの製品開発に着目し、また、自社の開発が、仕様のつめの甘さや技術の完成度、知識があいまいなまま進めることでの後戻りの多さを最大の課題として捉え、自社の改革を進めてきた人で、自らも「Knowledge Based Product Development」という本を出版し、自社のエンジニア全員を教育、育成するためのプログラムを開発し、今でも陣頭指揮にあたって、社内のレベル向上に努めている。

この会社、前社長のRon Marsiglio がトップダウンでトヨタのリーン開発手法を社内で展開し、その後、収益を大幅に改善することに成功したのです。

社長のリーダーシップで進めた全社改革を右腕として支えたのが、Bobでした。

今回、2時間という限られた時間の中で、彼らが新人向けに展開しているリーン製品開発の教育Workshopを端折りながら体験し、また、この会社の取り組に道のりなどについても議論させていただいた。

ワークショップは、ソーラー電池で動く、モデルカーの開発というテーマで、顧客要求は何か、という議論と実際にそれを紙にまとめる。次に、使える技術、部品は何か、つまり現在の自分たちの居場所を明確にする。ここで、つまり、顧客が求めている到達したいゴールと、自分たちの出発点が明確になるわけである、で、その次のステップとして、ゴールと出発点のギャップ分析をするわけで、ここまで聞くと、当たり前じゃないかという人たちもいるかもしれませんが、このギャップを、「知識のギャップ」として捉え、小さな「知識ギャップ」の塊を全部列挙していきます。これって、われわれの開発の中で本当にやられているでしょうか?

で、この知識ギャップ、われわれが知らないことを、トレードオフという考えをもって、どうやって知識として獲得するかをしっかり考えて、その知識を“設計する前”に獲得する計画を立てる、というわけです。

「出来ないこと」を出来るようにする、あるいは「知らないこと」を「知ることに変える」のが本来の開発だ。この当たり前のことを、とにかく実直にやっているのだ、というのが私の感想。

また、Bobとの会話の中で“Test Before Design”の重要性が印象に残った。
製品設計(詳細設計)は、知らないことを知ることに変えた後の、それを実現するフェーズだ。だから、詳細設計の段階ではわからないことはないはず。設計する前に検査方法を確立することは、設計の道筋がしっかり分かっている証拠。だから間違いなく設計できるし、高い品質の商品が出来上がる。

私は目から鱗が落ちました。これが第一のポイントで、開発の「本質」だと思うわけです。

で、もう一つのポイントは、この得られた知識を再利用できる形で、あるいは、他の誰もが簡単に理解できる形で残すこと。これが次のポイントでリーン開発では、“A3プロセス”と呼んでいます。A3という紙の大きさではなく、一枚に、起承転結を書ききって、人にわかってもらうことを大目的で書かれるということです。昨今のパワーポイントで書いた報告書のわかりにくさを考えると、日本企業でも取り入れたい手法(私が社会人になった30年前には、私の会社でも重要な会議ではA3報告書が当たり前だった。)かと思っています。いや、手法そのものを取り入れるということではなく、“開発の本質”に戻るためのアクションをとりたいということ。

この会社、課題認識してトヨタ手法を取り入れてから、全員に浸透し、開発の後戻りが大きく改善されるまで約2年間かかったそうです。強いリーダーシップがあっても2年はかかるのです。

トヨタ手法のもう一つの重要な要素は、チーフエンジニア(主査)をどう育成できるかということで、この点については、議論でしか聞けませんでしたが、今現在、65名のエンジニアに対して1、2名が育っているとのことでした。継続して育成するための努力は今後も必要ということです。

日本企業の人にトヨタのチーフエンジニアの話をすると、自分たちの会社にも同じような制度があって、同様ことをやっていると答える人がいます。が、これはまったくレベルが違うと思っています。トヨタのチーフエンジニアは、そのポジションも準役員というものですが、車一車種の事業責任をすべて負ってる、開発もわかる、プロジェクトマネージメントもわかる、企画、販売にも責任を持っている、工場、つまりものづくり、品質にもすべて責任があり、究極的には、事業責任を持ち、売れない車を作ってはいけないという大きなプレッシャーとも戦っているスーパーマンなのです。

繰り返しますが、トヨタの手法を真似して取り入れるというよりは、「開発の本質」をもう一度取り戻す、そのためにベストプラクティスを勉強する、ということが必要なのだと思っています。