A3報告書を導入しても成果がなかなか出ない?
トヨタのリーン製品開発手法の中でA3報告書活動を導入して社内のナレッジマネージメントを強化し、同じ失敗を起こさない、ベテランのノウハウを社内に残すなどの効果を求めているが、成果をしっかりと出すためにどうしたらいいかを知りたい。
比較的導入しやすい、活動内容がわかりやすいなどの理由で、リーン製品開発手法の中でもA3報告書活動をまずやってみたいと考える企業が最近増えているようです。
ナレッジマネージメント強化という課題とも合致するため、弊社にもたくさんの問合せがありますが、一方で導入してみたものの成果がなかなか刈り取れないという声も聞こえてきます。
陥りやすい勘違い、抱える課題に対する本質的な対処法についてお話ししていきます。
本記事の内容
A3報告書活動での陥りやすい間違い
トヨタのA3報告書は人材育成のツールとしても使われていて、トヨタ出身者からもA3報告書で鍛えられて、ものごとを簡潔に正しくまとめる力や、人に自分の意思を正しく伝える基礎能力が向上したという声も聴かれます。
ただし、限られた紙面のスペースに伝えたいことの全てを凝縮し、そして読み手にわかりやすく伝える技術は、誰もが簡単に出来るわけではなく、トヨタは長い歴史の中でA3報告書を活用し続け、その活用ノウハウを脈々と引き継いできた結果として、トヨタの開発力や組織力の源泉となったのだと言われるわけで、導入しようとする企業も、導入しさえすればいいという考えではなく、A3報告書の本質を理解し、自社でどうやって成果を勝ち取っていくかをしっかりと考えて実施していく必要があると思います。
実際に導入したものの、なかなか成果が表れないという事例から、陥りやすい間違いについて考察していきましょう。
A3報告書を書かせて蓄積することだけに注力してしまう失敗
手順として、A3報告書活動を導入するときには、まず書き方を指導して、実際に書かせるということになります。
ただし、この段階に長く留まっていては成果は勝ち取れません。
言われてみれば当たり前のことなのですが、実はこの段階の先を見据えていないために、いつまで経っても成果が出ないということがあります。
さらに言うと、短期間で組織全体でA3報告書の書き方をマスターし、質の高いA3報告書が数多く蓄積されていくための工夫も必要です。
上からの指示でとにかく書きなさいとか、ノルマ件数を課して重い負荷だけを与えていると、メンバーのモチベーションも上がらずに、個人や組織の想いが報告書に反映されず、形ばかりの報告書になってしまうことで、結果、誰も読まないものとして役に立たない報告書の山だけが残ることになります。
とにかく書いて蓄積することの先の段階とは、書かれた報告書が出来るだけ多くの人たちに読まれて、その人たちの業務の役に立つということなのです。
この段階になって初めてA3報告書活動の成果の芽が出てくるのですが、そのストーリーを描かずに導入を進めることで、活動が行き詰まってしまうことになります。
目指す成果は何で、それをどう評価するかを考えない失敗
A3報告書活動を始める動機が曖昧なケースがあります。
何となくトヨタもやっていて、「失敗を繰り返さなくなるだろう」とか、「ベテランのノウハウが書面として会社の残るだろう」とか、つまりA3報告書を始めさえすれば、何かが変わるという安易な考えで進めていって、ある程度時間が経ったところで、「なんで成果が出ないんだ!」みたいなことでは、おそらく永遠に成果は出ないかと思います。
要するにPDCAが回っていないということです。
まず、A3報告書を導入して成果を挙げるための計画(P)は何か?
実際にやってみて(D)、その結果はどうだったのか(C)?
結果から何を学んで、次に活かすのか(A)?
ということが出来ていなければ、成果に近づいていくことは難しいですよね。
このとき大事なのは、そもそもA3報告書活動で目指す成果は何かを具体的に目標値として持つことです。
そして更に大事なことは、その目標値を測定する方法が確立されていて、それを一定期間ごとに測定することで、活動状況をチェックして次のアクションに繋げるということなのです。
参考記事:A3報告書による開発革新活動の展開が形骸化して停滞した事例
スループット向上が真の成果という考え方
A3報告書活動に限りませんが、何かシステムやツールを導入することによって何かを変える、つまり改革を目指す場合、そのシステムの導入により、何を成果としてアウトプットするのかが重要です。
そして成果は、組織活動のインプットからアウトプットまでのスループットで考えることで、部分最適で自己満足の成果ではなく、企業活動の生産性向上による経営視点での成果を挙げることが出来るわけです。
製品開発活動は、市場情報、顧客要望、他社動向、そして社内に蓄積された知識やノウハウ、進行中の開発行為で生まれた新たな知識をインプットとして、アウトプットは顧客に受け入れられて購入してもらえる製品を生み出し、企業活動として利益を出すことです。
企業活動は、営業、企画、開発、購買、生産、サービスなど、たくさんの機能組織が連携してアウトプットを出そうとしています。
そして組織間を情報や生み出された付加価値が流通して、最終的に製品やサービスが顧客に届けられて、利益が回収されます。
特に情報、知識、ノウハウが一つ一つの部門で閉じられていないか、共通のものとして利活用されているかが重要です。
リーン製品開発手法では、これらの情報、知識、ノウハウをまとめて”知識(ナレッジ)”と呼ぶことにしています。
つまり、組織内に知識を流通させて、そこから良い製品を生み出して利益を出す、という一連の流れを最大限にスムーズにすることが、すべての活動の目標であり、A3報告書活動も同じ目標を設定すべきなのです。
A3報告書活動は、言ってみれば社内の”知識”を正しく効率的に流通させる「仕組み」であり、その仕組みを導入したことで、製品を生み出す力が増すかどうかが最大の問題だというわけです。
スループットで成果を測るということは、A3報告書活動によって生まれた成果が、最終的に利益拡大に貢献できているということを測定することです。
A3報告書活動がボトルネック解消になっているか
スループットを重視して組織改革を考えるということは、実は組織活動のボトルネックを意識しているかということに繋がります。
スループットは、インプットからアウトプットまでの流れを最大化することで、つまり全体の流れが悪くなっているとすると、何かがボトルネックになっているために、全体の流れが悪くなっているということになります。
この流れを止めているボトルネックを解消することが効率的な改革ということです。
A3報告書活動で良い製品を淀みなく出し続けるために、何がボトルネックになっていて、それがA3報告書活動で改善出来ていて、実際に良い製品作りの流れが良くなっていると実感することが成果を出すということです。
組織内、及び組織間での情報の流れ
実際のボトルネックは、実は企業ごと、あるいは組織ごとに違いがあるかもしれませんが、経験上、多くの企業で情報の流れが組織間だけでなく、一つの組織内であってもスムーズでない場合が多いと感じています。
情報の流れは、企業内の情報のパイプのようなものであり、組織全体にわたるコミュニケーションの基礎となるものだと思います。
この情報のパイプが非常に細い、あるいは組織間で断絶しているというのが、多くの企業での実情のような気がしています。
この情報のパイプを組織内、あるいは組織間でどう張り巡らせて、どうやって淀みなく情報を流すようにするかということが、A3報告書活動には期待されているはずなのです。
企業内の情報パイプの全体像、そして運用方法を確立して、その結果、情報が流れて組織全体で活用されて、初めて次の成果につながるということです。
成果の連鎖を考慮する
スループットで成果を考えるとき、一つ問題となるのは、最終的な成果が現場からみて遠くに感じることです。
活動がうまく行ってから、例えば収益が拡大するという成果までに時間がかかるということなのですが、例えばA3活動がうまく行って、情報の流通がスムーズになり、さらに組織内で情報が活用されて様々な無駄が排除されて、正しい情報伝達で正しい開発が進むようになり、顧客の想いがまっすぐに製品に反映されるようになり、その結果、良い製品が継続的に生み出され、そして収益が上がるというポジティブ連鎖を見ていく必要があります。
企業にとって最も大きな成果をあげるには、様々な要因が絡んでいるわけですが、一つ一つの小さな活動が少なからず寄与していることも間違いがありません。
小さな活動からの連鎖を意識することで、遠くに感じる大きな成果を管理することが出来るのです。
大事なことは、遠くにある収益拡大という最終目標を意識しながら、一つ先の連鎖を見ていくことなのです。
連鎖の繋がりがしっかり理解されていれば、あとは一つひとつの連鎖を一歩一歩進めることが出来れば、最終目標が確実に達成されていきます。
連鎖の全体像を把握することから始めましょう。
A3報告書活動からの連鎖の評価方法を決める
連鎖の全体像を把握するということは、A3報告書活動による改革の道すじを設計するということになります。
全体の道すじの設計が出来たら、まずは一つ一つの連鎖がうまく出来ているかを評価していきます。
例えば、連鎖を次のように考えたとします。
- A3報告書活動で社員の報告の質が上がる
- 報告書が多くの読者に読まれるようになる
- 知識情報が拡散して社内コミュニケーションが活性化される
- 同じような失敗をしなくなる
- 失敗から学んだ新しいノウハウが生まれる
- 品質問題が減少する
- 開発期間が短縮される
- 新しいチャレンジに取り組む時間が増える
- 市場で評価される製品が増える
- 売上が上昇する
というような連鎖です。(あくまでも例です)
1~10までの連鎖の途中では、社員のモチベーションも徐々に上がるような成果も期待できます。
このステップを考えたとしたら、そのステップのところどころで、成果を測定することが大切なのです。
例えば、ステップ2、3のあたりでは、本当に情報が拡散しているかを、例えば報告書の閲覧回数などで見ることが出来ます。
品質問題の内容をチェックしていれば、同種の問題発生が抑えられたかどうかは評価できるはずです。
開発期間はわかりやすいですね。特に日程遅れが常態化しているような状況であれば、日程順守率で答えは見えてきます。
開発期間が短縮されて、社員のモチベーションも上がったところで、好きなテーマにチャレンジできるような施策を打つと、少しずつ与えられた仕事以外の個人の想いで新しいアイデアが生まれる土壌が出来てきます。これは工数評価などで見ることができますね。
一歩一歩の連鎖を評価していくことで、PDCAを回すことができます。
そして、1~10までのステップをどれくらいの時間を想定していられるかということが、改革全体をどのように計画し、実践に移していくために非常に大事なことになります。
参考記事:「連鎖式組織改革法」 – 製品開発組織を勝ち続ける組織に変える
A3報告書活動で組織改革を成功させる
弊社では、トヨタの開発手法として知られるリーン製品開発手法をクライアント企業で導入する支援を行っています。
リーン製品開発手法の主な構成要素は、強いリーダーシップを継続的に生み出すチーフエンジニア制度、知識を積み上げて開発を進めるセットベース開発手法と、A3報告書活動の3つということになります。
開発組織改革の考え方としてそれぞれ非常に重要な内容ですが、すべてを真似して取り入れる必要もないと思っています。
それぞれの企業が抱える課題、そして企業が目指すべきゴールをどう設定しているかによって、改革の進め方は違うはずです。
成果を確実に勝ちとるためには、計画が非常に重要です。
そして、たくさんのことをやらなくても、例えばA3報告書活動をまずやってみる、という考えでも成功を勝ち取ることはできます。
ただし、本記事で申し上げたように、考え方、進め方を間違えないことです。
- 組織課題の本質は何か?
- そもそも何を目指しているのか?
弊社の支援はそこから始めて、具体的な策を展開し、目指すべきゴールに到達するまでいっしょに走らせていただきます。
まずは、今の状況について話してみませんか?
何かヒントになることをお話しできると思います。
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