リーン開発、アジャイル開発、リーンスタートアップは何が違うのかを知りたい

リーン製品開発セミナーなどで、リーン開発はアジャイルとかリーンスタートアップと何が違うのか、という質問を良くいただきます。

 

リーン製品開発についての理解を深めていくために、似ていると言われるアジャイル開発や、リーンスタートアップとの違い、あるいは共通性を認識することで、リーン開発の本質的な意味をしっかりと掴んでいただきたいと思います。

特に共通する考え方、”リーン”な考え方を理解することで、開発手法に限らず様々な場面で”リーン”な考え方を応用できるようになると思います。

 

 

”リーン”な考え方とは

 

”リーン”、つまり”lean”を辞書で調べると、「寄りかかる」とか「傾く」という動詞が最初にあって、形容詞としては「やせた」「乏しい」などのちょっとネガティブな意味が載っています。

しかし、詳しい辞書で更に調べると、<組織などが>「効率化した」「スリム化した」などの意味があることもわかります。

どうやら開発手法などで使われる”リーン”(”lean”)の場合は、こちらの意味ということのようです。

”リーン”が付く言葉で最も有名なのは、「リーン生産方式」かもしれませんね。

Wikipediaで「リーン生産方式」を調べると、名の由来として下記の説明があります。

ジャストインタイム生産システムに代表されるムダを徹底的に排除したトヨタ生産方式である。トヨタ生産方式では7つのムダを定義し、それらを減らす・無くすことに注力している。当方式ではこのムダを「“会社と言う名の巨人”についた贅肉」と見立て、「贅肉のとれたスリムな状態」で生産活動を行うことを目指す生産方式として構築された。そして「贅肉のとれた」の意である英単語のlean(リーン)を用いてリーン生産方式と命名された。つまりムダの無い生産方式という事である。(Wikipediaから引用)

リーン生産方式は、生産現場で改善を繰り返して無駄を徹底的になくすことで、「カイゼン」という言葉が英語でそのまま使われているように、世界的にも認知されている生産現場の改善手法です。

単にこういう形にすればいいということではなく、現場ごとの事情などを含めて、自分たちで問題を見つけて改善していく現場からのボトムアップアプローチがメインになりますが、トヨタの生産システム(TPS)はトップダウンによる改革と現場ボトムアップの改善活動が合体したものと言われています。

いずれにしても、改善のためのトライ&エラーを繰り返す形の改善活動によって生産性を劇的に上げられるという考え方になります。

製品開発や事業開発におけるリーンな考え方

リーン製品開発のキーワード

リーン生産方式と同じように、トヨタがルーツと言われるリーン製品開発については、別記事「トヨタ式リーン製品開発とは」で説明していますが、一つの鍵は、セットベース開発という手法の中で、MVE(Minimum Viable Experimentation;実現可能な最小の実験)を積み重ねていくという考え方です。

小さい実験によって、新しい知識を積み上げて学習サイクルを繰り返す開発のやり方によって、一歩一歩確実に開発を前に進め、遠回りに見えても後戻りのない、開発の無駄が排除できる開発方法であるという考え方です。

アジャイル開発のキーワード

アジャイル開発については、この後の項でも説明しますが、ソフトウェアやシステム開発手法の一つで、従来のウォーターフォール・モデルからの脱却を図って、開発のスピードを上げる手法です。

アジャイル開発のキーワードは、イテレーション、つまり小さい単位の開発で計画、設計、実装、テストというサイクルを繰り返してゴールに近づけていく考え方です。

小さい単位で一歩一歩作り上げていくので、開発途中での変更にも対応しやすく、結果的に開発期間も短くなります。

リーンスタートアップのキーワード

エリック・リース著の「リーンスタートアップ」は、スタートアップのバイブルとして起業家や新規事業立ち上げを担当する人たちに広く読まれています。

リーンスタートアップの中でのキーワードは、MVP(Minimum Viable Product;実用最小限の製品)です。

起業のアイデアは、大きく考えて小さくスタートするということ、また、構築、計測、学習というサイクルを小さく早く回すことで成功を掴みとるという考え方です。

リーン製品開発やアジャイル開発と同様に、一歩一歩積み上げていくという考え方があるのと同時に、スタートアップ企業は少ない資金でリスクを回避しなければならないため、全体を作って失敗すると損出も大きくなるため、失敗ややり直しによるリスクを低減するということも大きな狙いになります。

共通するのは小さく早く回すこと

リーン製品開発、アジャイル開発、そしてリーンスタートアップの共通点は、小さく早く回すことです。

リーン開発では、知識の積み上げサイクルを小さく早く、アジャイル開発では、ソフトウェアの開発行為を小さく早く、リーンスタートアップでは、起業アイデアの仮説検証を小さく早く回します。

小さく早く回すことで、リスクや無駄を排除できるということです。

言い換えると、リーンな考え方は、PDCAを小さく早く回すことだと言えるのだと思います。

目的に合わせてPDCAの対象が変わるだけで、仮説検証を回していくことで目的を早く、無駄なく達成するということです。

さらに全体を作ってから検証することよりも、失敗や手直しによる様々な損出を小さくすることができるので、プロジェクトや事業のリスク回避に貢献できるということです。

 

アジャイル開発とは

 

アジャイル(agile)という言葉は、「身の軽い」とか「機敏な」などの意味があります。

つまりは、ソフトウェア開発を身軽に、迅速に進めるための手法の一つだということです。(参考:【図解】アジャイル開発とは?

従来の開発は、ウォーターフォール型と言われ、プロジェクト全体で、計画→設計→実装→テストが行われて最終的な開発物がリリースされるというやり方になります。

一方のアジャイル開発では、イテレーションあるいはスプリントと呼ばれる小さな開発単位で、計画→設計→実装→テストが行われて、小さな機能が一つずつリリースされていく方法になります。

ウォーターフォール型は、開発途中での仕様変更をあまり想定していない手法であり、変更への対応が難しいと言われますが、アジャイル開発では、小さい単位で進めていくので仕様変更に柔軟に対応できると言われています。

アジャイルは、スクラムといってチーム一体でイテレーションの計画や実装を行っていき、スクラムミーティングというチーム内の密なコミュニケーションで計画の実効性を高めていきます。

アジャイルの中で、エクストリーム・プログラミング(XP)という手法は、要件定義からテストまでの過程で顧客要求を聞き入れて、変更にも柔軟に対応するためのプログラマー目線の技術的手法です。

ユーザー機能駆動開発(FDD)は、顧客目線で品質の高い機能を開発していくための手法です。

アジャイル開発は、仕様変更、特に顧客要求を開発を進めながら明確化し、軌道修正しながら開発していくやり方です。

顧客満足度を上げ、さらに開発のスピードが要求される場合には非常に有効な手法と言えます。

参考記事:

リーン生産、リーン開発を学び続け変革し続けるカリスマ経営者から学ぶこと
※アジャイル開発から更にソフトウェア業界の常識を覆したアメリカ企業の話

 

リーンスタートアップとは


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リーンスタートアップは、起業におけるリスクを低減し、かつ本当に顧客が求める製品やサービスを限られた時間で市場にリリースするための方法論です。

市場で成功するかどうかは、顧客しか答えが出せないという前提に立ちます。

つまりヒットするかどうか、イノベーションとなるかどうかは、顧客が実際にお金を払って製品やサービスを購入するかどうかまでをテストするという考え方を取り入れて、小さな単位でそれを実際の市場でテストしていくというアプローチです。

そして、結果が芳しくなければPivot(方向修正)して、もう一度やり直すというやり方です。

小さく早く学習サイクルを回すことで、資金的に余裕のない起業家たちが、リスクを減らしてイノベーションに挑戦することが出来るようになります。

自分目線だけでは、思い込みが入りすぎて失敗します。また、大きく回していると失敗したときの資金ロスが大きくなります。

顧客から学ぶことで失敗の確率を減らし、それでも失敗したときにも、最低限の損出で食い止めることができる手法です。

無駄を徹底的に排除した起業プロセスと言えます。

 

 

リーンな考え方から見たリーン開発の本質

 

リーン開発は、グローバルでも勝ち続けているトヨタがやっている手法だから、優れているに違いないとか、開発効率が劇的に上がるとか、イノベーションの確率が大幅に上がるとか、大きな期待を抱いている方もいらっしゃるかもしれません。

リーン開発を使った開発組織改革、開発プロセス改革によって大きな成果を得ることは可能だと考えています。

ただし、繰り返して申し上げているのは、形だけを導入しても成果は得られないということです。

自社の現状を理解し、到達すべきゴールをしっかりと設定して、そのギャップを埋める方法として、リーン開発の本質的な意義を取り込んでいくことが重要です。

では、リーン開発の本質は何かというと、上記で見てきたように、「小さく早く回すこと」です。

何を小さく早く回すかというと、新しい知識を獲得する学習サイクルを小さく早く回します。(参考:セットベース開発を理解する

では、新しい知識とは何かというと、「製品に関する技術的な知識」と「顧客価値をどうやって高めるかに関する知識」の2つです。

この2つの新しい知識を学習するサイクルと、これまで蓄積してきた社内の既存知識を無駄なく再利用する仕組みを作ることで、開発プロセスにおける無駄を徹底的に排除し、顧客が求めるイノベーションを起こす確率を高めることが出来ます。

多くの企業が行っている製品開発プロセスは、ソフトウェア開発で言うウォーターフォールモデルでの開発と同じだと考えています。つまり、製品全体で企画をし、設計(全体の詳細設計)をし、ものを作って(実装)、テストをして生産工程に移管していきます。(リリース)

早く試作機を作って試してみる(評価してみる)ことが最も大事で、最も早い方法だという思い込み暗黙の常識からこのような方法を捨てられないのだと思っています。

「まずやってみる(作ってみる)」という考えも間違ってはいないのですが、製品開発においては本当にそのやり方が正しいのか、疑ってみることも必要だと思っています。

 

 

製品開発においてリーン開発手法を導入するということは、ソフトウェアでいうアジャイルを導入することと同じくらいの大きな変革を考える必要があります。

顧客だけがイノベーションに対する本当の答えを持っているというリーンスタートアップの考え方も、製品開発に導入すべきです。

しかしながら、顧客の声を引き出すにも様々なノウハウがあります。

リーンスタートアップでは、無償でのダウンロード(顧客にソフトウェアを使ってもらえるかどうか)は、最終的に顧客が受け入れるかどうかの指標にはならないと言っています。つまり、本当にお金を払ってダウンロードしたいかどうかは、お金を払うかどうかをテストしなければならない、ということです。

顧客のダイレクトボイスに頼っていると失敗するというのは、よく言われることです。(ex:クリステンセン著「イノベーションのジレンマ」など)

本当に顧客が受け入れるかどうかの検証方法を知っているかどうかが、製造業の製品開発では勝負の分かれ目になると思います。

弊社では、新たな顧客価値、顧客自身も気づいていない潜在ニーズを把握する手法としてジョブ理論やマーケティング理論を活用しています。(参考:ジョブ理論を実践するためのフレームワークを教えます

マーケティングの考え方は、商品企画やマーケティング部門だけのものではなく、製品開発組織、技術開発部門にも必要な考え方であって、顧客価値に関する知識を組織内で蓄積していくためには、開発者、エンジニアにもマーケティング思考を持たせることを考えるべきと思っています。

 

戦略的なアプローチで改革を進める

「小さく早く回すこと」が非常に重要だということは理解いただけたと思います。

では、現状のやり方を客観的に見直して、「小さく早く回す」ことが出来る組織、あるいは開発プロセスに変えていくにはどうしたらいいでしょうか?

まずは、現状のやり方が目指すべきゴールとどのくらい離れているかを自己評価する必要がありますね。

闇雲にリーン開発、アジャイル、あるいはリーンスタートアップの手法を取り入れようとしてもうまく行かないと思います。

戦略的なアプローチ、すなわち現状を正確に分析し、ゴール(目標)を定め、ゴールと現状のギャップを理解して、適切な処置をしていかなければなりません。

現状問題を組織のボトルネックとして捉えることができれば、ボトルネックの解消で改革は一歩前に進めることが出来ますが、ゴールが遠ければ、一歩一歩の積み重ねも必要です。

フューチャーシップのアプローチは、現状分析、ゴール設定、ギャップ分析から一歩ずつ確実に成果を積み上げていくやり方、つまりまさに「小さく早く回す」改革を提案しています。

リーン開発手法をお伝えするだけでなく、組織の課題にどう対応するかを提案できるのが弊社の強みです。

 

弊社サービスにご興味があれば、下記、問い合わせフォームよりご連絡をお願いします。

 

 

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