因果関係マップは、リーン製品開発のツールの中でとても強力なツールです。

製品やユニット、あるいは技術要素に関して、顧客価値の度合いを表す「顧客価値変数」と、製品を構成するための技術変数、つまり設計変数とを因果関係で結んだ図であるのですが、製品開発においてこの因果関係マップを活用することで、開発効率を大幅に向上させ、またイノベーションを起こす確率を向上させることができます。

因果関係マップとは何か、因果関係マップの作り方、及び因果関係マップの活用方法について説明していき、因果関係マップの活用で製品開発革新を加速させることができることを解説します。

 

 

因果関係マップとは

アレン・ウォードは、著書「リーン製品開発方式」の中で、リーン製品開発の中で非常に重要なツールとしてトレードオフ曲線を挙げています。

そして、製品開発の中でトレードオフの存在を明確化するために因果関係図(因果関係マップ)を使うのだと述べています。

製品開発の中で、トレードオフを正確に把握し、組織内で共有することで、設計品質を向上させ、手戻りをなくすことができるとも述べています。

トレードオフは、製品として目指すべき2つの顧客価値変数のうち、片方を上げようとすると、別の片方を下げなければならないことを意味しています。

つまり2つの顧客価値のバランスを選択する必要があることを示す根拠となり、つまり、現状の技術の限界点を示すことになります。

この限界点を超えて、2つの変数を良い方向に改善するためには、何かブレークスルーする新しい技術開発が必要であることを開発チームで認識します。

 

リーン製品開発の最も重要な意義は、「知識」を組織で共有し蓄積していくということです。

活用する「知識」は、

  • 顧客価値に関する知識
  • 製品開発技術に関する知識

の2つです。

因果関係マップは、顧客価値変数と設計変数とを因果関係で結んで作成する図(マップ)ということです。

参考記事:

セットベース開発を理解する

因果関係マップの例 -電気掃除機

因果関係マップの例として、電気掃除機を考えてみます。

因果関係マップ作成のルールは、

  • 顧客価値変数と設計変数を捉えて円で囲む
  • 顧客価値変数の円の外に◎を表示する
  • 顧客価値変数は大きい方が好ましい場合は+、逆は-表示をする
  • 因果関係のある変数同士を線で結ぶ
  • 変数同士の関係が、正の関係なら<+>、負の関係なら<ー>を入れる
    ※正の関係は片方が増えると別方も増える、負の関係は逆

ということになります。

電気掃除機の因果関係マップは下図になります。

 

 

 

 

因果関係マップの作り方

因果関係マップの作り方、つまり作成手順に決まりはありません。

基本的に作成のルールが守られていれば、手順は各自の作りやすいように作っていただいて構いません。

ただし、弊社として推奨している手順はあります。

どんな状況で因果関係マップを作るかということにも依存しますが、例えば製品全体の大まかな構成、原理を見たいという場合は、まず、顧客価値変数をすべて挙げてみます。

挙げた顧客価値変数を、下図のように中央部を空けるようにして、分散させて置きます。

 

 

図の?マークのところに設計変数を埋めていきます。

それぞれの顧客価値変数に影響を及ぼす設計変数を考えていきます。

 

 

少しずつ埋めていきながら、変数間の因果関係を検証し、因果関係マップを完成させていきます。

 

 

複数の顧客価値変数のトレードオフを見つける必要がある場合は、このアプローチが有効です。

このアプローチ以外には、例えば、顧客価値変数は複数あるのだけれど、ある一つの重要な顧客価値変数に着目し、その顧客価値変数をどうやってブレークスルー出来るかという検討をする場合は、重要な顧客価値変数だけに着目して、設計変数を検証していくという方法もあります。

問題解決やアイデア検討の場合には、この方法を使うこともあります。

まずは、実際に作ってみて、経験する中で自社に合った作り方を見つけていきましょう。

 

 

因果関係マップの活用方法と注意点

因果関係マップは、製品開発プロセスの様々な場面で活用することが出来ます。

主には以下のような使い方があることをお伝えしていきます。

  • 製品システムの大まかな構造を理解する
  • 顧客価値変数間のトレードオフ関係を明確にする
  • 問題解決のため原因追及の手掛かりとする
  • 自分がわからないことを理解する
  • イノベーションを起こすための攻め処を見つける

それぞれについて説明していきます。

製品システムの大まかな構造を理解する

ひとつの問題提起として、既存製品のマイナーチェンジ設計を何度も繰り返していると、現場のエンジニアの皆さんが製品全体の構造、原理などを理解せずに仕事をしているケースがあります。

全体を知る必要がなくて、担当のユニットだけを知っていれば仕事が出来てしまうからなのですが、改めて製品全体を俯瞰することが出来れば、技術者としての幅が広がること、問題解決が容易になるなど利点がたくさんあります。

また、一旦、因果関係マップを作っておくと、組織内で製品全体に対する同じ理解を深めることにもつながり、技術コミュニケーションを円滑化してくれます。

顧客価値変数間のトレードオフ関係を明確にする

製品開発によって新しい製品を開発する主な目的は、顧客価値を高めることです。

製品に関連するすべての顧客価値を上げたいところですが、複数の顧客価値変数の間にトレードオフがある場合、すべての顧客価値を同時に上げることは出来ません。

トレードオフは、トレードオフ曲線で表され、トレードオフ曲線上の顧客価値変数間の組み合わせのある一点のみが、選択できるベストな選択となります。

Xという変数を優先するか、Yという変数を優先するか、あるいは50:50でバランスを取るかということが、製品企画としての選択になるわけです。

このトレードオフを把握していないと、営業や企画部門がどちらも高めるように要求してきたときに、明確に反論することが出来ません。

営業・企画対開発のような対決構図になり、精神論で複数の顧客価値変数をトレードオフ曲線を超えたバランスで企画書が作られます。

もちろん、新製品として高い顧客価値を目指すことは悪いことではありませんが、現状の技術で出来ることなのか、あるいは現状をブレークスルーしなければならない開発かを明確にして進めなければ、日程やリスクを読むことが出来ません。

また、現状の技術内なのか、新規開発なのかをわからずに開発を進めることで、時間的な無駄も発生します。

現状技術、現状の製品構成による限界点をトレードオフ曲線として組織で認識することは、正しい製品企画、開発日程を立てるためには、必要不可欠なことなのです。

問題解決のため原因追及の手掛かりとする

製品開発において品質問題の発生は、ある程度は付き物と考えざるを得ませんね。

チャレンジ度の大きい製品の開発では、品質問題発生のリスクは高まります。

品質問題が起きたときに、いかに迅速に問題解決できるかということが、その組織の開発力になるのだと思います。

もちろん問題を発生させないことが一番大事ではあるのですが、問題解決力はそれに次ぐ大事な組織の力だと思います。

品質問題は、顧客価値変数に影響を及ぼす現象として表れる場合と、顧客価値変数には影響がないものの、顧客価値を守るために設定された設計変数の基準値を満たさない形で現れる場合とがあります。

いずれにしても、因果関係マップ上のどこかの変数に異常が出ることになるので、因果関係マップの因果の連鎖を追いかけていくことで、問題の発生個所と特定しやすくなります。

また、問題解決を効率的に行うためには、起きている現象から発生原因の可能性をどれくらい思いつくかということも大切です。

そのためには、製品の全体構成、ユニット間の繋がり、連携の仕方などを理解している必要があります。

製品の因果関係マップを頭に入れることは、製品の全体構成やユニット間の連携に関する理解を深めてくれます。

開発チーム全体で、因果関係マップを作成し、それを理解して共通の知識ベースとすることで、問題解決力を強化することが出来るということです。

自分がわからないことを理解する

組織の中に製品全体を理解している人が減少しているのは、今、多くの製造業の問題ではないかと思っています。

ベテランが知識を会社に残さないまま定年退職してしまい、部分的な知識は持っていても、製品全体のことはしっかりと理解していない人ばかりが残っていっています。

開発作業を機能ごとに分担することで、製品全体の開発が進んでしまうということが一つの原因だと思っています。

エンジニア一人ひとりが「わからないこと」を勉強するチャンスもあまりないのかもしれませんね。

そもそも普段、自分の担当ユニットの開発で忙殺されていて、自分が何をわかっていないのかを顧みる暇もないのかもしれません。

因果関係マップは、電気掃除機の例を見るとやさしそうに見えるかもしれませんが、自社の製品とは言え、一から作成しようとすると、意外と難しいことに気づかれると思います。

因果関係マップのルールを覚えることの難しさもありますが、そもそも製品のことを本当に良く知っていないと作成できません。

要するに、因果関係マップを作成しようとすると、わからないことがたくさんあることがわかってきます。

これって結構大事なことです。

製品のことはある程度わかったつもりでいた人たちが、因果関係マップを一緒に作ろうとしてやってみると、意外に製品の原理を知らないということがわかってくるのです。

わからなければ、人に聞いたり、自分で勉強すればいいのです。

今まで、そんなわかり切ったことすらやっていなかったことがわかると思います。

因果関係マップは、自分たちが知らない知識をあぶり出してくれ、組織として学ぶ必要があることを組織に伝えてくれます。

イノベーションを起こすための攻め処を見つける

因果関係マップは、現存する製品の構成や原理を表現するツールです。

顧客価値変数と設計変数とのつながりを図示しますが、新たなコンセプトの商品を開発する、いわゆるイノベーションを起こすということは、究極的には顧客価値を高めること、あるいは、あらたな顧客価値を生み出すことだと思います。

現在の顧客価値を生み出すメカニズムが因果関係マップに表現されているなら、新たな顧客価値を生み出すためには、設計変数のどこに手を打つべきか、あるいは新たな設計変数を生み出すことで、顧客価値を高めたり、現状のトレードオフのバランスを崩すことが出来るかという検討資料とすることが出来ます。

(株)千石という会社が開発したアラジンというオーブントースターがあります。

このトースターは、0.2秒で数百度というトースターの必要温度まで発熱させることが出来る遠赤グラファイトという特別なヒーターによって、焼き上がり時間を劇的に短くし、その結果、外がカリカリ、中はふんわりという他のトースターで焼くよりも美味しいパンを顧客に提供できるものとして、大ヒット商品になっています。

ここで、トースターの因果関係マップを考えてみます。

このとき、顧客価値変数は最も重要だと思われる「焼き上がり時間」というのをまずは取り上げます。

 

まずは一般的なオーブントースターの構造を考えて、シンプルに考えて、焼き上がり時間に影響すると考えられる、ヒーター本数、ヒーターW数、反射板効率という設計変数と焼き上がり時間を因果関係でつなぎます。

同時に、簡単に考えつくのが、ヒーターの力を上げて焼き上がり時間を短縮することにより、副作用として消費電力が上がってしまうことが考えつくので、反対側に消費電力という顧客価値変数を追加し、トレードオフ関係を図で表現します。

これは、トースターのすべてを表した因果関係マップではありません。一番大事な顧客価値変数「焼き上がり時間」にフォーカスをした部分的な因果関係マップといえます。

製品開発でイノベーションを起こそうとしている時、どこをどう攻めるかという目的で因果関係マップを書くのなら、このように気になる変数にフォーカスすれば十分です。

因果関係マップは、完成させることが目的でなく、使用目的に応じて完成度や姿を変えることがあると理解してください。

さて、ここで、焼き上がり時間をどうやって短くするかという検討をするとします。

ヒーターそのものの改良、反射板の改良ということが、上図からは浮かぶかもしれませんね。

ここで、例えば、この焼き上がり時間に影響する3つ以外の新たな設計変数がないかと考えてみます。

 

 

上図のように、ヒーター立上り時間を画期的なレベルで短くすることで、焼き上がり時間を短縮で来るのではないかと仮説を立てます。

そのようにして、ブレークスルーすることが出来る独自のヒーターを開発し、結果的に、単に焼き上がり時間を短縮できただけでなく、他社のトースターよりも美味しいパンを焼けるようになり、大ヒットにつながったということです。

因果関係マップは、現存の製品の構成や原理を表現しますが、これによって抱えている技術課題や顧客価値改善の攻めどころを見つけるツールとして活用することが出来ます。

因果関係マップ作成上の注意点

因果関係マップは、完成したマップも勿論大事ではあるのですが、私は作成するプロセスが最も大切だと思っています。

作成する過程で、メンバーとの議論を通じて、たくさんの気づきがあります。

これこそが、因果関係マップの真の価値なのだと思っています。

因果関係マップはまた、実は正解というのがあるわけではないのです。

使う目的によって内容すら変わってくるのだと思います。

まずは、上記に挙げた5つの活用方法を参照いただき、目的に合わせて作成してみてください。

慣れるまでは、チームメンバーと喧々諤々で議論をしながら作成することをお勧めします。

その上で、以下のことを注意してください。

  • 完璧なものを作ろうとしない
    エンジニアは、こういうフレームワークを生真面目にやりすぎる傾向ああるかもしれません。
    例えば、顧客価値変数を出すときに、あまりにも細かいものまで含めて、マップを必要以上に複雑にしてしまうことがあります。
    あくまで目的に合ったレベルで作成しましょう。
  • 大事なところを集中的に書く
    繰り返しですが、目的で得たいものを得るために、大事なところに集中して、不必要な所を深く掘り下げすぎないことが大切です。
  • 自分が知らないことがあれば素直に認める
    知らないことが何かを知ることも学習のうちに入ります。
    知らないことを知って、知っていることに変えることで、自分も組織も進歩すると考えましょう。
  • 本当にこれでいいか、自問自答しながら納得いくものを作る
    完璧なものを作ろうとしない、ということと矛盾するかもしれませんが、目的にとって不十分なものでは意味がありません。
    目的を達成するためには妥協をしないことだと思います。

 

まとめ

A3報告書ほど有名ではありませんが、リーン製品開発において因果関係マップは非常に強力なツールです。

リーン開発手法と切り離して、単独で使うことでも十分に効果が期待できると思います。

ただし、A3報告書も同じですが、組織の中の一部で使っていてもあまり意義を発揮できないかもしれません。

組織として、活用方法を周知、納得した上で、また質の高い因果関係マップの作成と運用が必要だと思います。

もう一度、活用方法を記しておくと

  • 製品システムの大まかな構造を理解する
  • 顧客価値変数間のトレードオフ関係を明確にする
  • 問題解決のため原因追及の手掛かりとする
  • 自分がわからないことを理解する
  • イノベーションを起こすための攻め処を見つける

の5つが基本だと思います。

因果関係マップの作成については、弊社主催の「リーン製品開発実践セミナー」でも詳しく説明します。

ぜひ、因果関係マップを製品開発プロセスに取り入れて、イノベーションを継続的に起こす組織に変わっていきましょう。

 

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