トヨタ式リーン製品開発で改革を成功させるには、開発プロセスにナレッジマネージメントを融合させる!!
リーン製品開発での組織改革は、チーフエンジニア制、セットベース開発やA3報告書などのプロセスやルールを作るだけでは成功しない。開発プロセスや新たな組織構造とともに、ナレッジマネージメントの仕組みを完成させることが最も重要だ。
トヨタ製品開発を実践して失敗する一番の原因は、制度や組織体制の形だけを取り入れようとすることです!!
長く戦い続けられる開発組織の本質は、知識を生み出し続け、生み出された知識を無駄なく、大切に活用することです。リーン生産と同じように、必要な知識を必要なときに必要なだけ生み出し流通させることが、リーン製品開発の目指す姿ということです。
本記事の内容
リーン製品開発の構成要素を取り入れるだけでは成果は出ない
「トヨタ式リーン製品開発とは」で詳しく説明しているように、リーン製品開発手法の重要な要素は以下の3つです。
- チーフエンジニア制
- セットベース開発
- A3報告書
チーフエンジニア制は、単なる強い開発リーダーということではなく、企画、開発、生産、購買、販売、保守に渡るバリューチェーン全体をコントロールするカリスマリーダーの存在によって、ヒット商品を生み出し続ける組織を作るということです。
セットベース開発は、製品開発の構想段階で方式を1つに決めるのではなく、複数の方式の可能性を残しつつ、未知のことを一つずつ既知に変えていきながら製品開発を進めるやり方であり、仮説検証の単位を小さく設定することで、結果的に早く確実な製品開発を実施するということです。
A3報告書は、社内で生まれた知識をA3というフォーマット一枚に、すべての内容を凝縮し、読み手にとって必要なことを簡潔に伝えることで、社内の知識を再利用できるようにする仕組みのことになります。
それぞれの内容は、独立した手法、あるいは理論としても捉えることが出来ます。
そして、リーン製品開発手法を学んで多くの人が感じるのは、すべてを取り入れるのは難しそうだということです。
特に、チーフエンジニアのようなスーパーマンを育てるのは一朝一夕には行かないことは、誰もが感じることなのですが、だから手を付けないという風になってしまうようです。
また、セットベース開発も、現状のやり方と大きく変える必要があり、全社で進めないといけないし、賛同者がどれくらいいるか不安だという声が良く聞かれます。
消去法ではないですが、A3報告書であれば、比較的簡単に導入できるかもしれないと、まずはA3報告書文化を作ろうという発想になるケースも実際に多いです。
このアプローチ方法、つまりまずはA3報告者の活用から始めてみようという発想そのものは間違ってはいないのですが、しかしながら、なぜA3報告書をやるのか、A3報告書の導入によってどんな変革を期待するのか、という議論なしに進めるケースも見受けられ、結果的に成果を得られずに自然消滅していく状況をみるのは悲しいものです。
確かにチーフエンジニア制、セットベース開発、A3報告書という3つの重要要素にはそれぞれ深い意義があるものの、すべてが揃わなければならないというわけでもありません。
すべての形を整えることよりも、自社の現状の何が問題であって、それを解決するためのアイデアをリーン製品開発の理論から引き出して欲しい、と考えています。
さて、ではリーン製品開発手法からアイデアを引き出して、製品開発組織やプロセスをどうやって改善していくべきかということを考察していきます。
リーン製品開発で最も重要なことは知識資産の利活用
リーン製品開発手法の肝となるのは「知識資産」の利活用ということだと考えています。
自社が持っていない「知識(ナレッジ)」は何か?
自社が持っている有効な「知識(ナレッジ)」は何か?
ということをしっかりと認識した上で、
持っていない「知識(ナレッジ)」は学習して獲得する。
持っている「知識(ナレッジ)」は、社内で有効活用する。
という体制、システムを完成することが、製品開発組織の究極の姿なのだということです。
知識にまつわる落とし穴
自分が「自分が知識がある」ことを知っている、というのはごく当たり前のことです。
自分があることについて「知識がない」ということを知っていれば、それは知識ギャップであり、知識を獲得すれば新たな知識となります。
つまり、「知らないことを知っている」ことを「知っていることを知っている」に変化させればいいのですが、この活動が学習であり、開発組織であれば開発行為ということになるのです。
ところが人の知識というのは限界があり、また、世の中に存在する知識というのは無限でもあります。
したがって、自分が知らないことすら知らないことというのは、実際にたくさんあるのだということです。
この「知らないことを知らない」ことに気づき、「知らないことを知っている」に変化させることもまた学習であると言えます。
「未知のこと」を発見してチャレンジすることに変えることもある意味では開発行為になるのだと思います。
そしてもう一つ知識についての重要なことがあります。それは、「自分に知識がある」ことに気づいていないことです。
もう少しわかりやすく言うと、「そんなこと常識だ」と思ってしまい、自分自身が、他人が持っていない知識を持っていると思わないということです。
これを「暗黙知」、あるいは「知識バイアス」と言います。
企業においては、ベテラン社員がせっかく持っているノウハウを「そんなこと説明するまでもないこと」と後輩に伝えないまま退職してしまうことで、会社から知識が消えてしまうということが実際に多くの企業で起こっています。
「知識」を個人任せにすることがとても危険だということですね。
企業内の知識は、多くの場合、個人に着いています。
それ自体は、ある意味やむを得ないところがありますが、この個々人に着いた知識を会社の資産に変えて、企業活動を活性化することが、本来やるべきことなのです。
属人的プロセスを非属人システムに変える
企業活動において、個人個人の能力は非常に重要です。
組織力を高めるには、個人の能力を全体的に底上げすることが効果的だと考えられています。
しかしながら、極度の属人的なシステムでは、安定的で継続的な組織力にはなりません。
トヨタのように長い期間戦える強い組織を作るには、強い個人に頼るのではなく、企業内の知識資産を結集して属人的にならないシステムを作る必要があります。
リーン製品開発システムは、この非属人的な開発システムのためのものなのです。
まずは、自社の問題の根幹は何かを棚卸ししてみてください。
企業内の大事なノウハウ、知識はどこに存在しているかを確認してみてください。
企業内の組織が活用されて次のイノベーションの土台になっているか?
失敗が共有されて、二度と同じ間違いが起きないシステムになっているか?
品質問題がなぜ繰り返し起こるのか?
品質問題の解決にどうしてこんなに長い時間がかかるのか?
元を辿っていくと、「知識(ナレッジ)」を会社の資産として大事に扱っていないことにたどり着くはずです。
ナレッジマネージメントの実践で欠けているのはナレッジの質に対する考え方
「知識」の重要性に気が付くと、企業ではナレッジマネージメントを強化しようという声があがります。
これは非常に重要なことなのですが、では、ナレッジマネージメントとは何をどうすることなのでしょうか?
言葉というのはある意味とても無責任で、ナレッジマネージメントという言葉で、多くの人が自分勝手にどういうことかを想像できてしまいます。
そして、勝手に想像したことだけで、しかもそれぞれの人の考えが一致しているかを確認しないままに話が進んでいきます。
私の経験から、単にナレッジマネージメントというと、報告書、レポート類の書類を整理して、欲しい人が過去の情報を検索して取得できるようにすることと考える人が多いように思っています。
特にIT化を意識して、検索することに重きを置く傾向が多くの企業であるように感じています。
つまり、多くの人が考えるナレッジマネージメントは、まずすでにある社内情報をナレッジと捉え、過去のナレッジを活用できる仕組みを作ることになっているのです。
本当にこれでいいと思いますか?
私がここで指摘したいのは2つのことです。
- 今ある情報は、使える情報ですか?
- 今ある情報は会社が今後求める情報ですか?
使える情報でなければ活用されない
ナレッジを利活用するためには、ナレッジが文書情報として残っている必要があります。
つまり、ナレッジが使えるものかどうかは、文書情報、言い換えると報告書の質によるということになります。
報告書の質をどのように高めてそのレベルを維持できるかというのが、実は会社の組織力に直結するのだと思っています。
トヨタのリーン製品開発のA3報告書というのが、トヨタの強さの一つの理由であるのは、単に報告書をA3というフォーマットに収めているからではなく、A3報告書という形を通して、報告書の質を高めて維持しているということが最も大事なことなのです。
では、使える報告書とはどんな報告書か、報告書の中身についてはここでは度外視して、使える、つまり活用できるという条件を見ていきます。
- 読者に内容が正確にわかりやすく伝わる
- 無駄な情報を含まず、起承転結ストーリーがわかりやすいもの
- 文字ばかりで抵抗感を持つものでないこと
- 読者が欲しい、つまり読者の役に立つもの
- タイトルや導入で共感を得られるもの
- 読者を正しい行動に導くもの
こうやって見ると、使える報告書というのは、読者本位で書かれたものと言い換えることができます。
しかしながら、多くの企業の報告書の実態は、書き手本位のものが多いと言わざるを得ません。
書き手が書きたいように書く、あるいは直接報告を受ける上司と書き手が理解できるように書くということになる傾向があります。
ナレッジマネージメントという観点で、社内で広く利活用できる状況を目指すのであれば、本来は幅広い読者、将来可能性のある読者に対して、読んで役立つものにしなければなりません。
現存する報告書の質を確認せずに、検索する仕組みを作っても、結局活用されないシステムになってしまうわけです。
求められる情報とは何かを追及しなければ役立たない
もう一つ、今ある情報活用だけを考えると使い物にならないシステムになる理由は、管理する情報がそもそも求められるものになっているかということなのです。
ナレッジマネージメントで最も重要な考え方は、ナレッジ、つまり情報を商品として扱う考え方なのだと思っています。
ナレッジ、つまり情報が社内の商品として流通するシステムが、本来求めるナレッジマネージメントだと思うわけです。
商品ですから、顧客、つまり読み手が求めるものに合致していなければ売れませんね。
報告書を書く方、つまり情報発信者は、顧客(読み手)の欲しい情報を、使ってもらえる質で発信するようになることで、たくさんの読み手が情報を活用するマーケットになるのです。
多くの企業が取り組むナレッジマネージメントで欠けている考え方は、企業内で今後どんな情報が必要になるか、情報を活用する顧客(読み手)側からのニーズを把握しようとしないことです。
言い換えると、報告書を作る側の問題に切り込まずに、現存の報告書ありきでそれらにどうやってアクセスするかだけを考えているということなのです。
書き手主導の報告書は、製品開発でいうとマーケットインではなくプロダクトアウトということですね。
もちろん、書き手主導の現存の報告書の中にも、優れたものも多数あるのだと思います。
そこから利活用できる情報にアクセスするようになれば、それで現状よりは改善が見られるのかもしれません。
しかしながら、組織改革は現状との比較ではありません。
組織全体で何を達成したいのか、というゴール設定があって、そのゴールを達成することが改革の目的です。
知識資産を利活用することで、
- イノベーションを継続的に起こす
- 同じ失敗を二度と繰り返さない
- 長期で勝ち続ける組織に変える
というようなゴール設定をするのであれば、そのために「知識資産」をどのように活用しなければならないかという方針も決まるはずだと思います。
一方で、報告書の書き方を読み手主導に変えるというのは、実はとても大きな変化だと思います。
組織文化というのは、長い時間をかけて出来上がって定着しているものです。
組織改革が難しいのは、長い時間をかけて定着した文化や意識を変える必要があるからなのだと思います。
しかしながら、もっと基本的なことは、大きな成果を得るために、この文化や意識の変化が必要だと気づけるかどうかなのだと思います。
参考記事:「トヨタのリーン製品開発から学ぶ本当のナレッジマネージメント」
リーン製品開発の完成形はナレッジマネージメント・システムそのもの
約10年間、リーン製品開発手法の実践に取り組んできて到達したのは、製品開発の理想形は本物のナレッジマネージメント・システムを構築し運用することだということです。
'本物の'という意味は、偽物があるということ、そして多くの企業が偽物のナレッジマネージメントを作って失敗しているということです。
リーン製品開発のA3報告書、セットベース開発は、ナレッジマネージメントを完成させるための一つのヒントなのだと思います。
必ずしもA3フォーマットを使う必要もないし、セットベース開発という手法もそれがマストではないのです。
要するに、自社にない知識をどうやって獲得するか、自社が持っている知識をどうやって最大限に活用するのか、そして'必要な知識情報が必要なときに必要なだけ'流通するにはどんなシステムを作るのか、ということだと思います。
理想的なナレッジマネージメント・システム
リーン製品開発を実践して目指すことは、強い製品開発組織、製品開発プロセスによって、長期で勝ち続けられる組織を作ることです。
長期で勝ち続ける組織は、
- 属人的でない
- しかし個人の能力やモチベーションが高い
- 知識資産によって成長し続ける
ということだと思います。
そして、知識資産によって成長するためには、
- 組織内の知識がリアルタイムで共有される
- '失敗'から学ぶために知識を活用する
- 新たなチャレンジで既存知識を積み上げて新たな知識を生み出す
ということが自然に出来る組織になることです。
そして、理想的なナレッジマネージメント・システムの構築を邪魔するのは、組織内にはびこる思込みです。
今ある知識情報、つまりは報告書や文書情報ありきではなく、そもそも知識情報が利活用されるための情報の質をもう一度見直すところから始めて欲しいと思います。
情報の質を高めるためには、情報を発信する人が顧客(読み手)指向になること、組織全体で情報の質を高める意識を持つことが重要なのです。
ナレッジマネージメントを情報の検索システムと捉えないこと、ここに注意していただきたいと思います。
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