会社の知識資産を利活用でるようにA3報告書を始めたが、どうやって成果を刈り取るのか?

リーン製品開発を学んで、まず出来るところからとA3報告書を導入することに決めた。社員に簡単なガイダンスを与え、A3報告書のノルマを課してみたが、一年経っても成果につながらない。報告書の書き方をどうするかで止まってしまい、どうやって成果を出していけばいいのか知りたい。

 

リーン製品開発を学び、A3報告書活動を始めて社員にA3報告書を書かせるだけでは何も効果が得られません。書きっぱなしのA3報告者は読んでもらえず、役に立ててもらえません。会社組織にとって利活用できるようになるには、読み手が読みたいと思う内容、読んだことで読み手の業務に役に立つことが必要であって、会社の資産になるA3報告書になるためのレベルアップが必要です。組織的にA3報告書のレベルを向上させる方法をお伝えします。

具体的には、A3報告書を組織内で再活用できるレベルに質向上出来るように、上司やチームメンバーで相互指導をする能力と体制を作ることです。

 

 

A3報告書を導入する目的

 

リーン製品開発は、チーフエンジニア制、セットベース開発、そしてA3報告書という3つの重要要素で成り立ちます。

(参照:トヨタ式リーン製品開発とは

リーン製品開発手法を学んで、自社に導入する目的は様々ですが、大きく捉えると会社の「知識資産」ということを見直し、「知識資産」を効果的に生み出す開発プロセスと組織力を整備して、学習しながら製品開発を行う組織に変わることで、良い製品を効率的に生み出すことだと思っています。

その中で、A3報告書を導入するのは、本来は「知識資産」を組織内でしっかりと棚卸しして、形あるものとして残すということを目的に、比較的成果が見えやすいので、まずA3活動から始めようという企業も少なくありません。

長い間、企業内で定着してきた開発プロセスを変えようというハードルの高い活動の中で、まずはチームで見える成果を早く挙げたいと安易に考えるケースもあるように思いますが、繰り返し申し上げているのは、形だけを取り入れようとすると失敗するということです

導入当初から、A3報告書を作成する枚数を目標にする企業もなかにはあります。

A3報告書活動を通して、組織がどのように”変わる”かということに着目せずに、枚数だけを目標にすると絶対にうまく行きません。

間違えるパターンとして、まずはA3報告書を書く癖をつけるところから始めて、書くことをノルマ化して、件数が溜まってきたら文書管理システムと連動して社内で検索して活用できるようにする、という考え方です。

なぜこれがうまく行かないかというと、一枚一枚のA3報告書が、読んで社内で役に立つように書かれていないからです。

もう一度、本質に立ち戻って、A3活動を進めるのは、

社内の知識資産を網羅して、社内で共有することで、開発活動を効率化すること

という目的を立て、その目的に向かった具体的な数値目標(いつまでに何をどれくらい)を設定して活動をすべきだと思います。

A3報告書には”10/10/10の法則”というのがあります。

  • 書くのに10時間
  • 読むのに10分
  • 再利用するのに10秒

比喩的な表現ではありますが、書くのは大変です。慣れないと10時間でも書けないかもしれませんね。

読むのに10分は、視覚的にも見やすく、文字だけではなく画像や表などを活用して、すんなりと相手に伝わるようになっていれば、会議などで長々と口頭で説明しなくても済むということです。簡単に理解できるように書かれた報告書が、読まれて活用される報告書です。

そして、最後の再利用するのに10秒ですが、これは良い報告書は記憶に残る、ということを意味しています。

報告会や会議などで使われた良いA3報告書は、人々の記憶に残り、何か問題が起きたときに、

「そういえば、あの時アイツがこんな報告書を書いていた。」

ということが思い出されることで、口コミなども含めて、容易に再利用に発展するということです。

IT化による業務効率化も否定するわけではありませんが、まずは、一枚一枚のA3報告書を読み手にとって読みたいものにしてから、本来の本質的な目的を達成する活動にしていただきたいと切に願います。

 

 

書き手のものでなく、読み手主体の報告書に変える

 

トヨタ式リーン製品開発手法の中でA3報告書は、知識資産を生み出し、知識資産によってイノベーションを引き起こし、知識資産を組織内で蓄積して再利用することで製品開発を効率的に進めるために活用するツールであります。

「知識資産」は、開発組織の中の「血液」のような役割であって、「血液」が循環することで開発活動が活性化され、組織が成長していくエネルギーになります。

「知識資産」をA3報告書に書き残し、流通させ管理することで、製品開発プロセスを安定化させます。

リーン製品開発の中で、A3報告書は血液を循環させるための血管であったり、体中を駆け巡る血液循環システムのようなものかもしれません。

このような重要な役割であることを考えると、A3報告書の質は、安易に作成者のみにその責任を押し付けるわけにはいかないのだということになります。

 

報告書の役割が、会社の「知識資産」を伝達する媒体であるならば、A3報告書は組織として質が保証されている必要があります。

どのような質が求められるかというと、組織内のメンバーに読まれて活用されることに耐えうる質ということになります。

 

しかしながら、多くの企業での実態は、報告書の作成責任はあくまで作成者であって、作成者が書きたいことを書くものとなっています。

もちろん、作成者にはそれなりの責任はあって当然ですが、社内で役に立たないものを野放しにしているのでは、マネージメントの責任は免れないと思っています。

上司から依頼された仕事であって、上司だけに報告すればいいという報告書というのも現実にはありえるのでしょうが、報告書という著作物を作るのに必要な時間を考えると、本来、一人のための報告書というのは無駄ですよね。

本来、報告書は現時点のみではなく、将来にわたり、また時には作者の想定を超えるくらい広い読者に対して役に立つべきものだと思います。

将来に渡って広い範囲で活用されるA3報告書にするためには、読み手主体で、読み手が何を求めているかを理解し、読み手が求めているものを読み手にうまく伝わるように書かなければなりません。

A3報告書を導入するときに、一番最初にやらなければならないのは、書き手主導ではなく、読み手主導で報告書を書く文化に変えることです。

実は、これって結構ハードルが高いかもしれません。

いわゆる社内の人たちをお客さんのように考える、つまり社内マーケティングの考え方を作っていくという文化改革を行うことと、良い報告書を書く技術、あるいは良い報告書を書かせる指導力、指導体制を作る必要があります

 

A3報告書の質というのは、Webマーケティングに似ているのかもしれません。

Webの世界でも、役に立たないホームページやブログの記事は、読者に読まれません。

Googleの検索エンジンは日々進化していると言われていて、読者に役立つページだけを検索の上位にするようにしています。

だからWebマーケティングを導入している企業や人は、本当に役立つページ作りをすることによって、ページへのアクセス数を稼ごうとするわけです。

企業内のA3報告書も、読まれて活用されることに何かインセンティブを与えることで、書き手が高いモチベーションで、会社に役立つ報告書を生み出すようにすべきだと思います。

 

書く前にA3報告書の企画案を作る

 

読み手に伝わる報告書、かつ会社にとって役に立つ報告書を作成するために、まず、書く前に構想をしっかり立てることを推奨しています。

簡単なもので構わないので、報告書の企画案のようなものを作成します。

組織全体として、A3報告書のレベルが向上していれば必要ありませんが、A3報告書活動の導入後、仕組みとして定着させるまでの間はぜひやってみてください。

報告書を書き始める前に、

  • 報告書のタイトル
  • 誰に何を伝える報告書なのか
  • 伝えることで会社にとってどんな意義があるか
  • どんなストーリーで伝えるのか

ということをメモ書きでいいので書いて、上司を含めたチームで議論します。

そして納得できるまで、何度も作り直します。

報告書のタイトル

報告書のタイトルは、作者の意図を明確に表します。

タイトルで、会社の「知識資産」として価値があるものかどうか、意味のあることを作者が意図しているかがわかります。

また、実際に報告書が公開されたときに、読み手にとって「読みたい」と思える報告書であることも非常に重要です。

タイトルで、読者に訴えるものがなければ、結局は読まれない報告書になってしまいます。

タイトルでよくあるのは、「xxxプロジェクトにおける」、とか「△△△製品における」などの限定ワードです。

これは、必要であることもありますが、限定された領域でしか使えない情報は、その他の領域にいる人にとっては無用の情報になってしまいます。

やってきた仕事がある特別なプロジェクトのためであっても、得られた知識を広く活用させたい、と個々人が考えることがとても重要です。

報告書を書くときに、特別なプロジェクトでなくても活用できるように書くことができれば、タイトルからプロジェクト名などが消えるかもしれないし、プロジェクト名が残っていたとしても、読者から見て参考になるという印象を与えるタイトルになるのだと思います。

得られた知識を社内で活用するという考え方は、実は仕事に対するマインドセットにも影響してきます。

知識獲得のために実験をしたり、シミュレーションをするときに、自分の担当するプロジェクトのみに適用できるような変数の範囲を取るのではなく、将来、あるいは他のプロジェクトのことも考慮した実験やシミュレーションをやるようになるのです。

タイトルに、知識活用の気持ちが入るようになることを目指しましょう。

誰に何を伝える報告書なのか

簡単にいうと、報告書の目的なのですが、ここでも会社の「知識資産」ということを強く意識できるように、具体的に”誰に”対して書くのか、”誰を”お客さんとして考えているのか、そしてお客さんに対して、”何を”伝えることで貢献しようとしているかを明確にします。

お客さんは、特定の一人ではなく、広く一般化された対象として、現時点でお客さんになる人たちと、将来、お客さんになる可能性のある人たちを意識した報告書にします。

何を伝えるかは、対象となるお客さんが、どんなことで悩んでいるのか、あるいは将来困ることになるのかを考慮した上で、お客さんの悩みや困りごとを解決することで貢献します。

逆に言うと、お客さんの悩みや困りごとに対して貢献できないものは、読む価値がないということになります。

経験上、A3報告書の導入直後は、多くの人たちが何をA3報告書として残すべきかで悩まれます。

悩んだ結果、あまり読者にとって魅力のない報告書になるケースが多く、まずは書き始める前に、ここをしっかりとチームで精査して欲しいと思います。

伝えることで会社にとってどんな意義があるか

誰に何を伝えるかに通じることですが、その結果、会社にとってどんな意義があるのかを作者が意識することはとても大事なことです。

会社の「知識資産」という意識が全員についてくることで、個人の生産性が向上するだけでなく、組織能力が大幅に向上します。

会社にとっての意義は、できるだけ大きな成果として捉える癖をつけることも推奨しています。

例えば、自分の報告書によって、同じようなことで躓かないようにする、という直接的な意義があったとして、誰かが同じようなことで躓いて時間を無駄にすることを防ぎ、プロジェクト全体の日程が短縮される、というように、まずは小さな成果に結びつき、その結果、さらに大きな成果につながるという因果関係を考える癖をつけるということです。

さらに言えば、日程遅れがなくなることで、販売機会損出が減って売り上げが向上する、あるいは開発コストが減って利益がアップする、ということを考えてもいいと思います。

自分の成果を誇張するのではなく、それくらい重要な仕事をしているという自覚が生まれ、モチベーションがアップします。

どんなストーリーで伝えるか

報告書に対して、タイトル、目的、会社にとっての意義について、上司あるいはチームと合意が取れたら、最後にそれをどんなストーリーで読み手に伝えるかを考えます。

報告書の質としては、最も重要なところです。

起承転結という表現も出来ますが、伝えるためのストーリーがロジカルであって、作者や組織の思い込みが入り込んでいないかということと、更に大事なのは、社内の読者にわかりやすい書き方、内容になっているかどうかということです。

悪い報告書でよくあるのは、以下のようなことだと思います。

  • 結論ありきで書いている
  • 問題の本質を捉えていない(大事な問題を捉えていない)
  • 現状を客観的、かつ正確に捉えていない
  • あいまいな表現(難しい、大きいなど)が多い
  • 結論や本論と無関係な内容が多い(余計な情報が多い)
  • 論理の飛躍がある(なぜそうなるのかが不明)
  • 担当者でしかわからない記述が多い
  • 文字ばかりで読む気がしない

※ 報告書レビューのチェック項目にもなります。

などです。(まだ他にもありますが)

10/10/10の法則でも説明したように、A3報告書はパッとみて、短い時間で作者の真意を伝えることが大切です。

ロジカルに繋がらないものは、見た瞬間にクエスチョン(?)マークが浮かびますし、違和感を感じます。

ストーリーは、「魂を宿したデータ」という人もいます。

記事やプレゼン、報告書をストーリーとして書くことで説得力が倍増します。

そもそも作者の中にストーリーがしっかりとあることで、作者への信頼と共感につながるのだと思います。

ストーリーテリングを組織の中の多くの人が出来るようになるようなマネージメントを目指したいと思っています。

 

成果を挙げるための指導体制の作り方

 

A3報告書を導入して成果を挙げるということは、最初に述べたように本質的な目的を達成することです。

ここでは仮に、A3報告書活動によって「知識資産」が有効活用されることで、品質問題解決の時間が短縮されて日程遅れがゼロになるということを成果の例として考えてみます。

組織内で「知識資産」が共有化されて品質問題の解決時間を短縮するためには、過去の失敗事例、難問題に対する対応方法などの「知識資産」を優先的にA3報告書化して組織内で共有し、利活用されるという状態を作り出さなければなりません。

デザインレビュー時に、過去の問題対策に関するA3報告書データベースがすべてチェックされているか、ということを開発プロセスに組み込む必要もあるかもしれません。

このように、設定した目的・目標を達成させるための施策と、その施策がスムーズに動くように、必要なA3報告書の質と量を確保していかなければなりません。

これを指導するリーダーシップがまずは必要です。

施策の設定とマネージメントは、ここでは敢えて述べません。通常のマネージメントの中で出来ることです。

品質問題の解決時間を短縮して、日程遅れのプロジェクトをなくす、という目的に対して、何を報告書にすべきかということは、マネージメントで実直に棚卸しすれば、そんなに難しくなく出来ることだと思います。

問題なのは、では、それぞれのA3報告書はどれくらいのレベルまで質を上げていく必要があるのか、ということです。

A3報告者の質のレベルは、組織能力と直結するもので、導入直後は多くの企業で苦労することになります。

何となく「これではだめだ」ということは言えても、じゃあどうやって改善するかを理解して、報告書の書き方を実践指導できる人が組織内に何人くらいいるかで、導入して成果を挙げるまでのスピードに差が出ると思います。

あるいは、指導体制が出来なければ、永遠に成果を挙げることが出来なくなるのかもしれません。

組織メンバーが、質の高いA3報告書を書けるようになるには、2つのアプローチがあります。

  1. 見本となるA3報告書をたくさん見る
  2. 上司やチームと苦労しながら自分でも納得できるA3報告書を何度か作り上げる

いずれの方法にしても、実はマネージャークラスの人たちがカギになります。

A3報告書活動をマネージャーも社員も一斉に始めると、実は出来ないマネージャーさんが部下に見本を示せなかったり、部下を指導できずに浮いてしまったり、自分が出来ないからとA3報告書活動そのものに消極的になったりして、折角の取り組みも火が消えてしまいます。

弊社として推奨したいのは、まずは、マネージメントクラスの人たちが、ある程度質の高いA3報告書を書けるレベル、あるいはしっかりと部下を指導できるレベルまでトレーニングをしておく、ということです。

マネージャーが指導できないけど、トップからA3報告書を進めろと言われると、現場任せという状況に陥りやすくなります。

マネージャーが自分は知らんけど、現場はしっかりやってくれ、となったらまず成功することはありません。

改革の進め方として、まずはマネージャークラスがA3報告書の本質をマスターして、指導者として認定され、指導体制を確立していくことが大事だと思います。

トレーニング方法は、「どんなストーリーで伝えるか」の項で説明したように、悪い報告書の例を参考にしていただいて、チェックポイントを理屈として学びながら、実際にA3報告書を書いて、自分で満足し、更に周囲の人たちからも納得してもらうまで、何度も書き直して完成させていく方法で習得するのが確実な方法です。

相互学習の形を取ります。

実際に指導者として部下や後輩を指導するときにも、上司である自分だけが指導するのではなく、チームで組んで周囲からのアドバイスを受けながら、作者本人の気づきで質が上がるような体制にします。

指導方法は、答えを教えるのではなく、ヒントを与えて気づかせることです。

参考図書:

上司と部下とのコミュニケーションでA3報告書を完成させていく事例をわかりやすく紹介


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弊社が支援するA3報告書導入では、A3報告書レビュー会のファシリテーションを弊社で担当させていただき、質向上のための作者へのアドバイス、指導方法を実践の中でお伝えしています。相互学習の進め方を現場レベルで指導させていただきます。

お試しで、1つか2つの報告書を開示いただき、改善のためのアドバイスをさせていただくことも出来ます。

A3報告書活動の導入にご興味がありましたら、下記フォームでお知らせください。

折り返し、こちらからご連絡させていただきます。

 

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