組織変更、マネージャー交代で、なぜ会社を変えられないか?

製造業、IT企業にとって、組織改革による生産性向上、最終的には企業価値向上ということは企業にとって最大の経営課題なのだと思います。そのために、組織構造を変えたり、適材適所を狙った人事異動を繰り返す企業は多いのではないでしょうか?しかし多くの企業で、目指すべき改革の成果が思うように出ずに、10年経過してもずっと同じような組織課題を抱えているケースを散見します。筆者の経験から、企業ごとの問題の本質が捉えられずに、机上の空論となっていたり、対症療法に留まることで十分な成果が得られていないようことが多いように思います。

 

組織改革の落とし穴は、「長年変化しない組織の目に見えない経年劣化」を見落としているということがあり、結果、問題の本質が捉えられずに、表面的な対策になっていると考えています。

特に重要なキーワードは、

  • 組織から””が失われている →モチベーションの劣化
  • 知識・情報の共有が滞っている →コミュニケーションの劣化

ということを、企業ごとにしっかりと見つめ直す必要があると思っています。

また、トップダウンというと聞こえは良いのですが、一方通行のトップダウンは、実は大きな危険性を孕んでいて、昨今の工場の品質データ改ざん問題などは、トップが現場から離れすぎていることが原因の大きな部分だと言わざるを得ません。

トップと現場で真の意味で同じ価値観を持ち、同じ方向を向いて改革に臨むためにどうしたらいいかを提言させていただきます。

 

 

組織が劣化するメカニズムを知る

 

それぞれの企業は、その経営課題を改善するためにこれまで組織改革やプロセス改革を繰り返していると思います。

その時々で、狙いの目標を達成しつつ今があるというのが、多くの企業の現状だと思います。

しかしながら、いつの頃からか確かに期毎の方針や目標はそれなりに達成しているものの、なんだか10年前と状況はそんなに変わっていないと感じることはないでしょうか?

企業規模(組織規模)がまだそんなに大きくなかったころ、そして主力製品の売上げが右肩上がりで伸び続けている状況のころには、やること成すこと全てがうまく行って、何かを変えればそれなりの成果が挙がるということが確かに起きていたのですが、組織の規模も大きくなり、既存事業による収益もある程度サチッた状況になると、実は組織もプロセスも変革しているようで、マクロにみるとあまり変わっていないということはないでしょうか?

大きな目で見ると収益は安定しているし、人員の数も少しずつ伸ばしていて企業としては安泰のように見えるのですが、長い間あまり変化していない組織は、実は長い時間をかけて本当に少しずつではあるのですが、様々なところで経年劣化を起こしているのです。

具体例で見ていきましょう。

インターネット環境がもたらす利便性の裏で劣化するコミュニケーション

インターネットの普及は、企業内の生産性を劇的に高めたということは間違いないと思います。

社員一人に1台以上ずつのPCが与えられ、業務プロセスは全てPC上で行われ、社内のコミュニケーションは基本はe-mailという状況です。

かたや1990年初頭には、パソコンは課に1台かあっても数台、社内のコミュニケーションは内線電話が基本でした。

当時は社内のあちらこちらで電話で話す声や、社員同士が席に座った状態で会話している声で、社内は騒音と活気に満ちていましたが、現在は、隣に座っている人とメールで会話するなど、多くの社員は自分のPCを前に黙々と仕事をしていて、社内は静まり返っています。

意識はしていなくても自然に入ってくる他の人の話声は、知らず知らずのうちに情報を伝達しています。

課長が誰とどんな会話をしているか、今、課長の仕事はうまく行っているのか、あるいは何か問題を抱えているのかが、電話の声から伝わってきます。

課長だけではなく、普段はあまり接点のない同僚や先輩が、どんな仕事をしているか、今どんな状況かをリアルタイムで勝手に共有されるのです。

e-mailでのコミュニケーションは、言った言わないの事故を防いだり、それぞれが都合のいいタイミングでそれぞれの仕事が出来るなど、確かに良いことは山ほどあるのですが、同時に上の例のように、知らず知らずの情報共有を失うことになっているのです。

いくつかの企業で組織課題として挙がることの一つに、同じ部門内でも他者が何をしているのかがわからない、という問題が挙げられることがあります。

このような状況でもっとも深刻な問題は、組織内の知識や情報が横に広がっていかずに、社内のナレッジが有効に活用されないことだと思っています。

専門領域を強化することが、長い時間をかけて製品全体を理解できる人を減らしている

開発効率を向上させる目的、あるいは企業のコア技術育成を目的に、専門領域ごとの集団を作り、専門家による分業化で製品開発を行うスタイルに、多くの企業が1990年代ころから舵を切り始めました。

製品事業が好調で、作れば売れる時代だったのかもしれません。

複数のシリーズ機種を一度に立ち上げたり、コアとなるような技術を複数の機種で横展開するために、専門技術者が機種の専門領域の開発に特化することで、開発効率を高めることに成功します。

企業全体の収益拡大のため、分業化による開発生産性を一気に高めることに成功し、企業業績はさらに上がっていったのだと思います。

しかしながら、分業化体制を長く続けることで、確かにたくさんの専門技術者と言われるエンジニアを育成することが出来た反面、製品全体を理解できるエンジニアが大幅に減少していったように思います。

自身の担当ユニットのことは良く理解しているものの、他のユニットとの連携、機能配分など、製品アーキテクチャーを理解しないために、複数ユニットに跨る技術問題、品質問題が発生すると、その解決に以前よりも多くの時間を要するようになった、というのが個人的な感想です。

製品全体がわかるエンジニアが減少すると、既存製品の改善テーマは効率よく開発できたとしても、新しいコンセプト製品を生み出す、つまり新しいアーキテクチャーの製品開発を行う能力が企業からなくなっていくことを意味していると思います。

改革の裏に副作用あり、副作用による経年劣化が組織を弱体化させる

会社を存続させる、あるいは収益を伸ばしつづけるためには、企業は変革し続ける必要があります。

つまり、経営課題に対してチャレンジをしていく必要があるのですが、上記2つの例のように、もちろんチャレンジによって良い変化を起こすことは出来るのですが、同時に副作用にも注意しておかないと、それがとても小さな副作用であったとしても長い時間とともに、会社を弱体化させてしまうことがあるのです。

すべてのことには二面性(表と裏)がある、ということを理解したいのです。

企業トップが新しいことを取り入れる、あるいは組織の施策を展開するとき、もちろん第一義として狙った良いことは達成させるのかもしれませんが、このとき第一義の良いこととは比べ物にならないほど小さなことであったとしても、副作用のようなことが長い時間蓄積されることで、大きな問題になり得ることを考えておくべきなのです。

そして、ものごとの二面性(表と裏)を捉えて問題解決を行う方法が、実はTOC(制約理論)のクラウド(対立解消図)なのです。

※TOC(制約理論)、クラウド(対立解消図)については別記事「TOC(制約の理論)とは?~製品開発組織に適用する方法」を参照ください。

クラウドの二面性については、下図で具体的に説明します。

開発組織としての最も上位の目的として、A「製品開発の生産性を高める」ということがあるとします。

この目的を達成するために、組織として例えば専門技術ごとに分業化し、専門技術を横展開して同時に開発できる機種数を増やすということを考えたとします。

このとき、製品開発の生産性を上げるための別の視点として、製品開発全体のプロセスやノウハウをOJTで若い人たちに引き継ぐことで、次のリーダー、専門領域だけでなく機種全体を理解できるエンジニアを育成するということが挙げられます。

確かに、専門技術を強化することも重要で、専門領域ごとに分業化することで、一人の専門家が複数機種開発を同時に行うことができて、企業としての開発生産性が上がります。そして、この施策を現在の開発プロセスで実施していると、図の下半分の内容が同時に出来ないことになり、時間の経過とともに、上半分だけが達成されて、下半分を犠牲にしてしまうということが起きてしまいます。

これが、二面性(表と裏)による組織の弱体化のメカニズムということです。

 

成果を確実に挙げる組織改革を行うための5つの鉄則

 

組織問題の多くが、ものごとの二面性(表と裏)で起きていることを理解していただいた上で、ではどうやって組織を立て直すか、組織改革を実行していくかというお話しをします。

確実に成果を挙げる本物の組織改革を実行するためには、以下の5つの鉄則に従う必要があります。

  1. 現状を正しく、正確に分析する
  2. 目指すべきゴールを明確に定義する
  3. 対応策の正しさを机上検証し、改革の道すじ(組織の変化)を設計する
  4. 1~3をトップと現場で共有し、同じ方向を向いて改革を進める
  5. 2に基づいて、成果(変化の状況)を測定し、高速にPDCAを回す

1~3までの手順は、弊社では「連鎖式組織改革法」と呼び、TOCの思考プロセスをマスターしながら、実際の組織の問題をワークショップで解決していく手順、プロセスを提供しています。

「連鎖式組織改革法」-製品開発組織を勝ち続ける組織に変える

 

トップと現場の相互理解が成功の条件

せっかく筋の良い改革案、改革アイデアや実際に展開する施策があっても、改革がとん挫してしまうことがあります。

長年の経験から、改革が成就しない原因としては、トップと現場の想いが乖離しているということが挙げられます。

例で見てみましょう。

製造業の生産現場で起きている品質に関する不正問題が後を絶ちません。

そのたびに、トップが再発防止策を考えて発表しますが、問題は繰り返されています。

トップからのQCDをすべて必達しなさいという命題が、現場では大きなプレッシャーになり、また不十分なリソース、製品設計自体の不備で追い詰められた現場をトップが理解していないことで問題が発生していることを捉えずに、表面的な対策、例えばチェック体制の強化などの対症療法を再発防止策としているために、根本の問題が解決されないままになっているという状況があります。

また、CやDは、明確な数字により評価され、誤魔化しようがないのに比べて、Qに関する検査データは、データの意味や重みが現場で周知されれいない(時間とともに何故その基準が必要かが組織内で伝わっていない)ため、形骸化した検査工程になってしまっているケースなども散見されます。

現場は、トップの想いを経営目線で理解することが大事であるし、トップは現場の実情を正確に把握すること、及び、トップからのメッセージがどのように現場に届いているかをリアルタイムで理解する努力をする必要があります。

トップと現場の意思疎通を密にし、組織問題を確実に解決していく方法は、

  1. トップが組織課題について問題意識を発信し続ける
  2. トップの問題意識に基づいて現場からトップに改革案を上げる
  3. トップと現場で改革案をブラッシュアップする
  4. 現場の改革活動をトップが全面支援する

ことだと思います。

このような改革を全社で実行している例としては、日産自動車のV-upが挙げられると思います。(「日産V-upの挑戦」)

V-upは、今は褒められた人ではないですが、カルロス・ゴーンと志賀さんの時代に始めた、組織的、かつ継続的な組織改革の仕組みで、2001年に導入され、2013年までに3500億円の累積効果額を出しているということです。

日産では、今でもV-upという仕組みで企業改革を継続しているそうです。参考にしていただければと思います。

成果を測定し、高速にPDCAを回す

組織改革が成功しないもう一つの例は、改革の成果を測定してPDCAをしっかり回していないことです。

陥りがちな例としては、毎期の施策展開で期初にKPIを設定して、期の振り返りにKPIを評価しているのですが、組織変化の設計図に対するKPIになっていずに、施策展開のとても狭義なKPIになってしまって、施策展開の目標は達成していても、肝心の組織問題が解決していないなどということが起きることがあります。

例えば、品質問題が多発しているという問題に対して、「設計レビューを強化する」という施策を展開したとします。

この施策を展開するときに、例えば優秀なレビュワーが参加する必要があることから、レビュワーをランク付けし、Aランクのレビュワーの参加を必須とするようにしたとします。

このときこの施策展開のKPIとして、レビューの回数、各レビューでの問題点指摘数、Aランクレビュワーの育成人数などを今期のKPIに設定するとします。(よくある事例だと思います)

確かに「設計レビューを強化する」という施策に対する成果測定としてはこれでも良いのかもしれません。

しかし、大元の問題は「品質問題が多発している」ということで、この「設計レビューの強化」によって、品質問題がどれくらい低減されたのか、それは狙いの目標に対してどうだったのか、ということが見逃されているわけです。

改革を進めるにあたって、最も重要なことは、最終的に達成したゴールを見失わないことです。

そして、ゴール達成までの道すじがしっかり設計されていて、その設計図に乗って組織が変化していることを測定するわけです。

弊社が進める「連鎖式組織改革法」では、現状問題に対して対策したことが、組織にどんな変化をもたらせて、最終的に組織が求める目的を達成していく(変化させていく)過程を未来ツリーとして表現します。(下図参照)

未来ツリーの矢印は、因果関係を表しており、何かのトリガーがあって、その結果組織が変化していく因果関係を図にしています。

下図の例では、トップの想いは「収益を上げる」ことであり、現場では「日程通りに開発が進む」ということになっていますが、それぞれが因果関係でも繋がっていて、最終的にはトップと現場の両方の目的が達成されます。

ただし、それぞれの矢印は、組織の変化を表しているのですが、その変化に係る時間は矢印ごとに違うかもしれません。

つまり、組織が変化する時間は一定ではないし、ましてはすべての変化が一瞬で起こるわけではありません。

どれくらいの時間で一つひとつの矢印(変化)が起きて、最終ゴールを達成するのかということが、改革の設計図となるわけです。

この未来ツリーをベース(設計図)として、改革活動ですべての変化が設計図通りに起こっているのか、あるいは一部の変化が起きていないのか、あるいは何か予想もしていなかった副作用が起きていないか、などを評価していきます。

そして、評価するためには、変化の度合いを正確に評価できるような評価方法の設定が必要になります。

 

 

未来ツリーは、組織改革を行う5つの鉄則のうち、2と3をカバーします。

まず、組織が目指す未来を図にすることで、トップと現場、あるいは関係するすべての人たちでゴールイメージを共有します。

また、ゴール設定と同時に、未来ツリーは組織をどんな手順で変化させるかの設計図にもなります。

矢印の元から先に向かった狙いの変化が起きているかどうかをチェックしながら改革を進めていくわけです。

参考記事:「日産V-upから学ぶ製品開発革新の実践~トップと現場一体の組織改革システム

全社一体となった改革を今すぐ始めましょう!!

 

組織が劣化するメカニズムを理解し、

組織改革のための5つの鉄則を理解し、

組織改革を進めていただきたいと思います。

トップと現場が一体となった改革は、誰が起点になっても始められます。

  • 組織に熱を込める
  • 知識・情報を共有のため社内コミュニケーションを改善する

まずは、今なぜ組織に問題があるか??

その解析をするための一歩を踏み出すために、ぜひともご相談ください。

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