戦略立案における開発組織幹部の悩み
- 技術戦略などの戦略の立て方の本質を理解している人が少ない
- 既存製品の開発やフォローに戦力を取られ、中長期の戦略が描けない
- 戦略を立てて進めるが、戦略目標が達成できないことが多い
フューチャーシップでは、様々な企業での経営戦略、開発組織の中期経営計画(中計)や技術戦略などの立案支援をコンサルタントとして経験しており、お客様企業での戦略立案のご支援をさせていただきます。
本文の内容
開発組織の戦略立案3つの重要要素を理解する
戦略の基本的な重要要素は3つです
- 診断(分析)
- 基本方針
- 行動
このうち、基本方針のところだけを「戦略」と捉えられることもありますが、診断(分析)は正しい基本方針を導くために必須であり、また、行動を伴わない戦略は絵に描いた餅になってしまうので、良い戦略に行動は切り離せません。
診断(分析)
孫氏の兵法に「敵を知り己を知れば百戦危うからず」という言葉があります。
ビジネスの世界での戦略において診断(分析)は、競合や自社、そして顧客を分析します。(3C分析)
また、自社の分析では、強みや弱み、どんな向かい風、逆風が吹いているかを調べます(SWOT分析)
3Cは、Company(自社)、Competitor(競合)、Customer(顧客)の頭文字をとって3Cと名付けられたものです。
SWOTは、Strength(強み)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)の頭文字です。
いずれの分析も、現状と経営目標のギャップをしっかりと把握し、なぜ今、経営目標が達成できていないかを、自社、競合、顧客の観点から分析するのが3C分析で、自社の状況をさらに深く分析するのがSWOT分析になります。
これらの分析手法は、技術戦略、経営戦略の立案と実行における、基本的な分析手法となります。
戦略を継続的に見直す組織では、これらの分析が形骸化してきたり、戦略の結果ありきになっていき、意味のない戦略になる危険があります。
3C、SWOTの他に、競争の原理(マイケル・ポーター著)に出てくるファイブ・フォース(5F)を使った分析や、3Cを時代の流れで見ていくフレームワークなどもあります。
また、企業内の重要課題を分析する手法として、TOC(制約の理論)のフレームワークを用いて、悪い症状の連鎖を分析することで組織における根本問題(ボトルネック)を見つけ出すという手法なども使われます。
基本方針
戦略の要になる部分です。
分析結果から、競争に打ち勝つため、あるいは現状を打破するための大きな方向性を決めます。
ただし、この基本方針については、正解があるわけではなく、個人のアイデア次第ということになります。
ビジネスの世界での著名な戦略家といえば、ジェフ・ベゾスやスティーブ・ジョブズなどが浮かぶと思いますが、診断(分析)から基本方針を引き出す公式はありません。
先人たちに倣うとすれば、シンプルで驚きであること、だと言えると思います。
誰もが考え着くことではなく、しかも難しいことではないこと、後から言われれば誰でもわかるのに、普通では気づきにくいことなのかもしれません。
行動
戦略は目標とは違います。
戦略は、結果をコミットするものでもありません。
勝つ確率を上げる、戦況を改善する、競争を優位にする、負けない状況をつくる、それらのための行動を起こして、状況を変化させることが重要です。
これまで、開発組織をたくさん見てきて共通の課題があると感じています。
例えば、多くの機種を同時に効果的に開発するために、分業化、専門家を進めて、全体を理解する人がほとんどいなくなった組織で、品質問題とその対処で自転車操業状態になり、また、機種開発に関わる人数が増えたことで、人と人のインターフェイスが爆発的に増えたことで、コミュニケーションに関わる問題や雑用に時間を取られ、モチベーションが低下している組織ということを課題として捉えてみます。
詳細に分析した結果、基本方針として、「一人一人の技術者が、顧客のこと、会社の利益のこと、技術の有効活用について、考えて行動する組織に変える」ということを挙げたとします。(実際にこの基本方針は多くの企業で使えると思う。)
このような共通の課題、そして、流用可能な基本方針を考えた上で、弊社としての開発革新のための7つのステップを考えてみました。
基本方針を達成するためには、現状との差異を把握したうえで、さらに組織内の事情、制約条件を踏まえて、最速で目標達成に向かうための行動計画に落としていく必要があります。
行動計画は、100%の成功確率があるとは限りません。
戦略に基づく行動計画は、うまく行かない場合のバックアップ計画、計画修正の必要があるかないかを判断するマイルストーンと、変更や撤退を決めるための条件を設定しておく必要もあります。
戦略立案の落とし穴
複数の企業で見てきた悪い戦略の例を考えてみます。
どれも陥りがちな落とし穴だと思っていて、私の感覚では、70%くらいの製造業で以下の悪い例3つのうち1つ以上当てはまっていると思います。
- 高い目標を立てることが戦略と勘違いする
- 課題を挙げて、一つ一つの課題に対応策を付けようとする
- 重大な問題に取り組んでいない
1.高い目標を立てることが戦略と勘違いする
経営トップとして、高い目標を立てることは悪いことではありません。
しかし、「高い目標を立てた=良い戦略が出来た」と考える経営者を時々見かけます。
高い目標は、はたから聞いていると聞こえが良く、高い目標を立てている会社は良い会社だと見えるのだと勘違いしてしまいます。
高い数値目標の中期経営計画をいつも立てるけど、この10年間、一度も達成したことがない、という会社を複数知っています。
本当の意味での戦略がないのです。
2.課題を挙げて、一つ一つの課題に対応策を付けようとする
こういう会社はものすごく多いと思います。
課題リストのようなもの作り、課題を挙げてスプレッドシートに書きます。たぶん10個や20個の課題が挙げられていて、その一つ一つの課題の横が、”対応策”のようになっていて、一つ一つの課題に策を設定しているのです。
文字通り、策に溺れるという状態だと私は思います。
問題を分析していないのです。起きている「現象」に蓋をしようとしていて、まさに対処療法です。
このような会社は、こういう課題と対応策のリストを期初に作って、一年間(あるいは半年間)の活動計画にするのですが、一年経って、策はいくらか実施されているのですが、肝心の課題に対しては、ほとんど何も変わっていないというケースがほとんどです。
3.重大な問題に取り組んでいない
2の落とし穴とも共通ですが、問題が分析されずに、起きている現象だけを追っかけようとするので、重大な問題を漏らしているケースがあります。
人が足りない、開発日程に遅れが生じていて対応策が必要だ、残業時間が異常に多くなっている、などをそれぞれ対応しようとします。
本質の問題を捉えようすれば、例えば、技術者一人ひとりの生産性が低い、あるいは、プロジェクトリーダーの質が低下している、などが根本の問題かもしれません。(あくまで例として)
悪い症状を引き起こしている根本の問題こそ重要な問題であるのに、そこに手をうたずに、人材ローテーションをやってみよう、開発機種の優先順位を見直そう、とか、ノー残業デーを強化しようなどという明後日の方向を向いた策がでてくるのです。
いかがでしょうか?思い当たるところがあれば、戦略立案の進め方を見なおしてみることをお勧めします。
戦略立案で注意すべきこと
前項の「戦略立案の落とし穴」に嵌っていれば、それはぜひとも抜け出してください。
それ以外で、注意すべきことは以下の4つです。
- 戦略とは驚きであり、シンプルであるもの
- 組織問題は、単独で起きているのではない
- 組織問題は、一つか二つのボトルネックで起きている
- 戦略実行には、障害や副作用が付き物
1.戦略とは驚きであり、シンプルであるもの
長々しい、複雑な戦略は良い戦略とはいいがたいのだと思います。最も重要なところに即効性のある施策をうつ、つまりはシンプルであることです。
診断(分析)から基本方針を導くのは、やさしいことではありませんが、出来ないことではないはずです。
戦略立案をするときには、シンプルに重要なことに刺さるもの、そして、誰もが考え着かない驚きの要素を入れることを心掛けたいです。
2.組織問題は、単独で起きているのではない
組織問題は、単独で起きているのではなく、複数の現象が連鎖でつながって起きていると考えるべきです。
複雑に絡んだ問題を読み解いていって本質にたどり着くまで、粘り強く分析を続けることを心がけましょう。
3.組織問題は、一つか二つのボトルネックで起きている
複雑に絡み合った問題は、本質的には少数(1つか2つ)の根本問題に行き着くことが普通だと意識してください。
表面上の問題を見るだけでは、誤った戦略に走ることになります。
また、改革、改善を続けると、このボトルネックは動くことがありますので、そこも注意が必要です。
4.戦略実行には、障害や副作用が付き物
戦略に基づく行動計画には、障害や副作用が付き物です。
障害や副作用が起こってから対処していては、戦略目標の達成がおぼつきません。
予想できるリスクは、あらかじめ取り除いておくのがマネージメントの常道です。
基本方針が出来たら、それで安心してしまうのではなく、実際の行動を起こして戦略目標を達成するまで気を抜かないことが肝要です。
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