TAS式営業戦略とは?

かつてマーケティング部門の責任者をやっていたときに、営業部隊への教育でウィルソンラーニングという会社からTarget Account Selling(TAS式営業戦略)を勉強したことがあります。

自分が営業をやるためということではなく、営業を教育する立場として3日間の実習を含めたトレーニングコースを3つのチームで行い、それをオブザーブさせていただいたのですが、非常に勉強になりました。

営業戦略の立て方、特に陥りやすい間違った考え方を示しながら、そこを改革していく考え方は、単に営業だけの話ではなく、企業活動全般に通じるものだと感じたので、技術系の方たちにも共有したいと考えたわけです。

TAS式営業戦略は、ウィルソンラーニング社が提供している教育プログラムであり、内容の詳細についてはウィルソンラーニング社のHP等を参照ください。

ただし、TAS式営業戦略の概要について、日経XTECHの記事がありますので、興味のある方は参考にしてみてください。

日経記事:「提案の”勝率向上”即効ガイド

 

TAS式営業戦略を一言で表すと、

「敵を知り己を知れば百戦危うからず」ということを実直に進めること、と言えると思います。

フレームワークとしては、

  1. 案件をアセスメントする
  2. 競合戦略を立てる
  3. 顧客の組織分析を行う
  4. 行動計画に落とし込む

ということになるのですが、一つ一つチェックしてみると、普段の活動が如何に当たり前のことをやってないかということに気づかされます。

案件アセスメントでは、営業マンの思い込みを排除して、案件の状況を客観的に分析します。

  • 案件は本当にあるのか?
  • 競争に参加できるのか?
  • 実際に勝ち取ることが出来るのか?
  • 勝ち取る価値があるのか?

これらの状況をチームで分析することで正しい戦略立案が出来るようにします。

これらの分析に必要な情報が揃っているかどうか、20個の質問でチェックしていくのですが、実際に参加していた40人ほどの営業マンのほとんどが20の質問に満足に答えられない状況でありました。

たくさんのことを学んだのですが、いくつか大事なポイントを以下にまとめてみます。

1.ほとんどすべての営業マンは、自分がコンタクトしているお客さんが意思決定者だと思いこんでいる。
→ところが、ほとんどの人が組織図さえ書けないし、組織上の決定プロセスを知らない。

2.営業戦略とは、知るべきことを知るところから始まる。
→何を知らなければいけないかを知らずに行動している人がほとんど

3.必ずしも商品が強ければ勝つのではない。
→自分か車や高価なものを買う時のことを考えればわかる

4.結局は人間対人間のこと。
→好き嫌いがあるのはしかたがない。嫌われたときにどうするか。

5.撤退することも大事な戦略。
→コストをかけるなら勝つ、勝てないものにコストをかけない。

個人の能力や経験に頼った営業活動でなく、特に初期の段階でマネージャーも強く関わりながら、情報分析を正しく行って、戦略的なアプローチをすることで負けない営業をしていくことが重要です。

また、組織を運営しているのは人間です。

競争に勝つためには、時には人間臭い実情も考慮しなければなりません。

組織構造の分析、公式な組織と非公式な組織(実際に力関係)、公式な決定プロセスとそれを逆転する非公式な力など、聞けば納得できるものの、理論としてはなかなか思いつかない考え方も非常に為になりました。

営業活動でのマネージャーの関わり方も、多くの場合、クロージングフェーズでマネージャーを巻き込んで案件をクローズしようとしますが、TAS式営業戦略の教えは、最初の段階、つまり案件のアセスメントから戦略の決定までのところこそ、マネージャーを含めチームで戦うべきということになり、まさに製品開発でフロントローディングを上げることで、品質改革をしようということともマッチします。

 

弊社では、TAS式営業戦略からの学びから、戦略理論を深く学び、製品開発組織の改革に戦略的思考を加えることを強く推奨しています。

世の中には、戦略に関する間違った考え方が蔓延していることもわかっています。

正しい戦略の立て方や考え方を技術者向けに提供する「戦略立案スキル向上セミナー」を提供しています。

良い戦略と悪い戦略の事例から、正しい戦略思考を身につけていただきたいと思います。

参考記事:「ものづくり企業の収益改善を目指した製品開発戦略の立て方

 

戦略思考に共通すること

 

TAS式営業戦略の肝は「情報」です。

市場での競争は、情報戦だと言ってもいいと思います。

正しい分析、正しい判断のためには、正確な情報を他社よりも多く、そして早く入手することが大事です。

このことは、営業に関することに限らず、弊社が進めている製品開発革新においても同じことが言えると考えています。

製品開発、ものづくり企業で競争に勝ち残るためには、「情報」を正しく掴むことが非常に重要です。

正しい「情報」をもとに、正しい分析、正しい戦略を立てるためのフレームワークがあれば鬼に金棒といったところかと思います。

「戦略」というと、3C分析とかSWOT分析などによって「情報」を整理し、状況を判断していくのですが、陥りやすいのはこれら分析が甘くなることです。

もっと具体的に言うと、3CやSWOT分析には正解はありません。傍から見ていて、どこまで深く分析しているかがわかりづらく、分析する方もこの辺でいいやと不十分な分析で先に進めてしまい、間違った方向を選択するケースが多いのです。

いわゆる形骸化してしまうということです。

戦略そのものも、結果ありきで、最初から結論ありきでその方向に分析結果を歪めてしまうことが、残念ながら発生しています。

営業戦略にしても、開発戦略にしても、このことは深く肝に銘じていただきたいと思います。

「情報」を正しく掴む、まさに「敵を知り己を知れば百戦危うからず」ですね。

 

さて、営業戦略の場合は、「TAS式営業戦略」のフレームワークに沿って、情報収集、案件チェック、競合戦略、顧客分析、そして行動計画に落としていきます。

製品開発戦略も同じように、「情報」を起点にした戦略を展開していきます。

製品開発に関する情報は、大きく言うと「技術」に関すること、及び「顧客価値」に関することの2つの情報を起点にします。

弊社では、これらを「知識」という風に読み替えています。

「知識」を蓄積、つまり学習することで知識を得て企業の知識資産にして、「知識」を利活用することで、競争に勝てる製品を生み出していくのです。

知識を積み上げて製品開発を行うことを「セットベース開発」と呼んでいます。(参考記事:「セットベース開発を理解する」参照)

「情報」=「知識」であるのですが、単なる「情報」から使える「知識」に変換することも必要です。

使える知識は、人間の考える力でしか生まれません。

「情報」から「知識」に変えるのが戦略思考であるということも、営業、開発に関わらず重要なことなのです。

 

顧客とのコミュニケーション

TAS式営業戦略で、案件アセスメントにおける20の質問、顧客の組織分析などを学ぶと、如何に普段の顧客とのコミュニケーションが重要かがわかります。

営業マンが、顧客との何気ない会話から大事な情報を聞き出していくわけですが、きちんと重要な情報を聞き出せる営業マンとそうでない営業マンの差が、営業力の違いとしてはっきりと出ます。

何を聞き出すべきなのか、自分は顧客の何を知らないのかを普段から意識しているかどうかが大変重要になってくるわけです。

TAS式営業戦略では、自分たちが知らないことをあぶり出し、それを聞き出すことを行動計画に入れ込んでいきます。

 

製品開発の真の目的は、「顧客価値」を高める製品を顧客に提供することです。

しかし、製品開発の場合、多くの製造業では技術者の顧客とのコミュニケーションが不十分だと考えています。

顧客とのコミュニケーションは営業とか企画部門の責任だと考えて、開発技術者はあまり顧客との接点を持たない会社が多いと思いますが、新しいコンセプトの製品や大ヒット商品を生み出したいのであれば、技術者が顧客を知ることが非常に大事になってくると考えています。まさに顧客に関わる「情報」ですね。

その意味で、弊社では開発者、技術者がマーケティング思考を持って活動することを推奨しており、その中で「ジョブ理論」を使った顧客価値理解と、顧客価値を起点とした製品開発を推進しています。(参考記事:「ジョブ理論とは?-どう実践するかわかりやすく解説します」参照)

製品開発での顧客とのコミュニケーションで重要なことは、顧客のダイレクトボイスではなく、顧客も気づいていない潜在ニーズを見つけることです。

顧客が直接言う要求は顕在ニーズであって、競合他社も簡単に聞き取ることが出来ます。

顕在ニーズではなく、あくまで他社が気づかない潜在ニーズにリーチするための方法がジョブ理論であるわけです。

 

TOC(制約の理論)を使った製品開発戦略展開

TAS式営業戦略からの学びがあり、弊社では開発組織の改革のために戦略思考を取り入れます。

戦略思考を正しく実践するために、敵を知り己を知るということを実践します。

まさに「案件アセスメント」⇒「組織の現状分析」から始まって、自社の立ち位置を決めゴールを設定して、現状とゴールとのギャップを埋める戦略を策定するという考え方です。

 

 

弊社がクライアントさんといっしょに進める製品開発戦略は、上図のような形で進めます。

トップの想い、経営レベルの高い目標に対して、現状を正確に把握、分析するためにTOC(制約の理論)のフレームワークを用います。

TOC(制約の理論)については、別記事「TOCとは?~製品開発組織に適用する方法」を参照ください。

TOCを活用する理由は、TOCの問題解決プロセスが、組織の思い込みを排除して、シンプルに正確に問題を捉えて正しい分析を導いてくれるからです。

組織問題は、小数の根本問題から派生しているという考え方から、まずは組織のボトルネックを見つけていきます。

組織のボトルネックを解決する方法として、製品開発として成功事例であるトヨタのリーン製品開発やジョブ理論を取りいれていきます。

戦略は、高い目標を立てることではなくて、高い目標と現状のギャップを高確率で埋めていくための策略です。

戦略は、分析、基本方針と行動の3つから成り立っています。

TAS式営業戦略でも、案件分析、競合に立ち向かう基本戦略と、最後は行動計画に落としていきます。

正しい戦略思考で、営業戦略も製品開発戦略もともに成功させましょう。

 

戦略がうまく働かないのは、分析が不十分、言い換えると情報不足であると言えます。

さらに、せっかくの情報も使える情報に変換できなければ意味がありません。

情報戦に勝つために、TAS式営業戦略の基本的な考え方を取り入れた弊社の開発戦略をご活用ください。

 

戦略立案スキル向上セミナー

戦略ということを間違って捉えている会社を多数散見します。良い戦略と悪い戦略の実例から戦略の本質を的確に捉え、企業における経営計画、技術戦略、組織改革など、重要な戦略立案をリードできる人材を育成するためのセミナーです。

 

「戦略」に関するフューチャーシップの提供サービス

TAS式営業戦略からの学びを含めて、戦略に関して弊社から以下のようなサービスを提供しています。

※ その他、ご要望に応じて講話などを提供させていただきます。お気軽にご相談ください。