急速に認知度が広がっているSDGsを中小製造業としてどう取り組むか?

2015年に国連で採択されたSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)は、大企業が先行する形で取り組みが始まり、今や消費行動への影響として一般にも急速に認知が進んでいます。中小の製造業企業として、どのように取り組むか、自社の事業拡大と社会貢献をどう両立させるかが大きな課題となっています。

製造業の製品開発革新によって企業改革を支援する中で、マーケティング機能を強化することとSDGsの思想との共通項に着目し、SDGsの取り組みとマーケティング機能強化を同時に実践する考え方について説明する。

具体的には、顧客指向をさらに進めて人間中心の考え方に進化していくマーケティングの考え方で、社会貢献と収益拡大を両立させる取り組みを行っていく。

 

 

SDGsとは?

 

SDGs(持続可能な開発目標)は、2015年に終了したMDGs(Millennium Development Goals:ミレニアム開発目標)の後進として2015年に国連で採択された、2016年から2030年までの世界共通の国際目標です。

SDGsでは、「誰一人取り残さない」という基本理念のもと、17の目標と169のターゲットが設定されています。

 

 

17の目標は持続可能な社会を実現するためには不可欠であって、官、民、組織、個人の区別なく、すべての人が協力して取り組むことが求められています。

ビジネスにとっても非常に重要であって、持続可能なビジネスを実現するための目標でもあります。

 

SDGsとビジネスの繋がり

SDGsを考える上で最も重要なキーワードは、ESG問題です。

  • Environment:環境問題
  • Social:社会問題
  • Governance:組織統治問題

ESG問題は、ビジネスや我々の生活の維持を脅かす重大な問題です。

SDGsの取り組みは、ESG問題への取り組みと言ってもいいのだと思います。

ESG問題の発生源

社会問題は政治の責任、そして自然災害は避けられないし、誰の責任でもないものと思われるかもしれませんが。。。

大量生産、大量消費、大量廃棄によって環境汚染や二酸化炭素の大量排出が気候変動を生みだし、資源の減少、枯渇などで環境問題が深刻化しています。

また、経済成長は物質的には豊かな社会を生み出す一方、企業競争の激化によって経済格差や人権侵害、社会的孤立や少子化なども引き起こし、社会問題が深刻化しています。

つまり、これらはいずれも企業の経済活動によって生じた問題であり、また、これからも経済活動が原因で起こり続ける可能性がある問題なのです。

SDGsは、厳密な発生源はともあれ、世界中でESG問題が深刻化してきて、これからも不安が続いていく中で、世界中すべての人が一丸となって、ESG問題を乗り越えられる社会を作っていこうということなのだと私は解釈しています。

もっと言うと、その中で企業の役割は大きく、また責任も大きいのだと思います。

ESG問題への取り組みが新たな市場を作る

ESG問題への取り組みを、義務的に捉えるだけでなく、新たなビジネスチャンスと捉えることが出来ます。

社会的弱者(障碍者、シングルマザー、受刑者など)への支援を行う新たな事業、エシカル(倫理的)消費を促進するための新たな物流など、社会全体がSDGsへの取り組みを進める中で、相互連携やマルチベネフィットという考え方が生まれて、新たなビジネスモデルや市場が創造されていきます。

中小企業にとっても、大企業へのサプライヤーとしてCSR調達への適合力でビジネスを拡大したり、ソーシャルビジネスの推進によって新たな市場を獲得するチャンスになります。

SDGsは社会貢献とビジネス拡大の両立を目指すもの

持続可能な社会を目指す活動というと、一体どんなことなんだと思うかもしれませんが、つまるところ企業にとってのSDGsというのは、ESG問題を解決するという社会貢献と、企業の収益拡大を両立させる活動であると言えると思います。

<参考記事:外務省「SDGsとは?」>

 

マーケティング理論の進化とSDGs

 

マーケティングという言葉が使われ始めたのは、1900年代初頭、アメリカの大学だと言われていますが、実際にマーケティングの考え方がビジネスの世界で使われたのは、1950年ころだと言われています。

つまり、そんなに歴史が古いわけではないということです。

マーケティングの神様と呼ばれるフィリップ・コトラーは、マーケティングの進化をマーケティング1.0、2.0、3.0というように定義しています。

ここでは、マーケティング理論の詳細はお話ししませんが、マーケティングは奥が深い理論であって、これからの世界では企業全体で取り組んでいくべき課題だと思っています。マーケティングの学び方は、別記事「マーケティングをわかりやすく学べる本を紹介します」を参照ください。

マーケティング理論の進化は、理論自体が変化するということではなく、市場そのものが変化していることに追随していると考えることが出来ます。

マーケティング1.0の時代では、「作れば売れる」という大量生産ビジネスが幕を開ける中で生まれたものだと思われます。

T型フォードという自動車が、馬車を置き換える形で世の中に浸透していったときに、製品の告知さえしていれば売れるという世界です。

そこからすべての製品に競合が出現してきて、市場での競争という概念が生まれ、他社との差別化をして利益を出すためにSTPマーケティング、つまりマーケティング2.0に進化していったのが最初の変化です。

市場を分割(Segmentation)し、分割した市場に狙い(Targeting)を定め、狙いに対する自社の立ち位置(Positioning)を決めて競争に勝っていくという考え方で、2021年時点でもほとんどの企業がマーケティング2.0の考え方でビジネスを展開しています。

しかし、競争が激しくなると顧客から見た選択肢は増え、インターネットなどの普及によって購入手段も劇的に増えてくると、STPマーケティング、つまりマーケティング2.0の考え方に限界が出てきている、というのが今の状況です。

コトラーは、この状況を打破するには、主観的価値観を企業と顧客が共有することだと言っています。

「価値主導」のマーケティングということです。製品主導のマーケティング1.0、消費者主導のマーケティング2.0から、価値主導のマーケティング3.0へのアプローチということです。

 

 

「価値」を顧客と共有するブランド戦略として、コトラーが主張するのは、「社会問題の解決に満足感を覚える」消費者に訴えることでブランド価値を高めていくことです。

コトラーは著書「マーケティング3.0」の冒頭で、「世界は痛みをともなう急速な変化のただ中にある。」と言っています。

また、「マーケティング3.0とは、企業が消費者中心の考え方から人間中心の考え方に移行し、収益と企業の社会的責任がうまく両立する段階である。」とも言っています。

つまり、SDGsの基本的な考え方とマーケティング3.0の考え方は、社会貢献と収益の両立という点で完全に一致しているわけです。

 

中小製造業におけるSDGsの取り組み方

 

SDGsの認知度は上がり、大企業ばかりではなく、自治体の活動から個人の意識の変化まで幅広く浸透してきている今、中小企業にとってもSDGsへの取り組みは避けて通れません。

しかし既存事業で忙しい中小企業にとっては、SDGs専任メンバーを出してSDGsを学びながら進めるわけにもいきません。

SDGsとマーケティングの考え方に共通性があるのですから、一緒に進めてしまいましょう。

SDGsを差し迫った状態で進めるよりは、新たなマーケティング思考を取り入れながら、SDGsへの取り組みもアピールできるという考え方で進めてください。

SDGsに決まったやり方はありませんが、弊社流の解釈でマーケティング3.0によるブランド構築法とSDGsを一緒に進める手順についてお話しします。

企業理念やミッションに社会貢献が入っているか

まず自己チェックしていただきたいのは、企業理念や経営理念に社会貢献を目指す言葉が含まれているかどうかを確認してください。

企業理念や経営理念は、例えば「清く正しく」などのように抽象度が高くて、美しい言葉が使われていることが多く、具体的に社会貢献を連想させるようになってない場合があります。

企業理念や経営理念は、創業者の意思や創業の狙いなどを表現している場合があるので、変えることは出来ないと思われます。

企業理念に明確な社会貢献の意思が表れていない場合は、企業のミッションに注目します。

ミッションを特に設定していない場合は、ここで改めて考えてみましょう。

企業理念に基づいた自社のミッションに、改めて社会貢献の意思を表したいです。

企業ミッションは、「XX技術を通して△△に貢献します」のような表現が多いと思います。

ここで、SDGsの17の目標に合致するようなミッションを設定することで、全社一丸となって社会貢献を目指し、SDGsにしっかりと取り組んでいることを社内外にアピールすることが出来ます。

顧客から見た企業の価値

ミッションに社会貢献への具体的な意思が示せたなら、次はミッションの実践を顧客に認めてもらわなければなりません。

ミッションで掲げたことが、製品から出てくるメッセージとして顧客に伝わっているか、あるいは役員や社員の普段の行動、言動が、ミッションで掲げたことと合致しているかどうかを、顧客は主観的な満足度として感じ取ります。

顧客が自社に対して抱くイメージ、どんな価値を感じているかを客観的に知ることが大切です。

製品から出されるメッセージは、製品の差別化をどのようにしているかということと、ターゲットとする顧客層に対して、どんな立ち位置(ポジショニング)を取るかということで顧客に伝わります。

企業のブランドは、ミッション、差別化、ポジショニングの3つで決まってきます。

ミッションと差別化、ミッションとポジショニングが繋がって、企業活動や役員、社員の行動がミッションに対して誠実であるかどうかが顧客に伝わって、顧客の中の主観的な価値観に訴えていくわけです。

製品開発の方法を変える

中小製造業が効果的にSDGsに取り組む方法の最後は、製品開発を変えることです。

社会貢献、つまりSDGsの目標がミッションに表現され、そのミッションに合致した製品を生み出すことが、SDGsの取り組みそのものとなり、かつマーケティング理論を使ったイノベーションを起こす活動にもなるわけです。

製品企画で新しいコンセプト製品のアイデアを出していく段階で、ミッションで掲げたテーマから具体的な課題を抽出していくことで、ミッションと製品、つまり差別化ポイントを繋げていきます。

弊社では、具体的にジョブ理論のフレームワークを使って、ミッションから製品アイデアを出していく方法を提案しています。

詳細は、別記事「ジョブ理論を実践するためのフレームワークを教えます」の中の「JTBD-Bのフレームワーク」で説明していますが、簡単に言うと、下図の例のように、例えば企業のミッション、つまり顧客から見た企業の価値として「毎日の家事を楽にしてくれる会社」という具体的課題を設定し、その課題に沿ってアイデアを検討していきますが、次の段階では、顧客が日常で成すべき仕事(ジョブ)をストーリーのように連続の行動として捉え、その一つひとつのジョブに対する現状のソリューションの問題点を解決するアイデアを検討していきます。

 

 

上記の例では、キッチン周りで毎日の食事を用意するための製品やサービスに関わるアイデア検討で使えるフレームワークです。

企業のミッションを「食品ロスを低減させる」と置き変えれば、別のアイデアが出てくるはずです。

製品開発で新製品の企画をするときに、製品機能やカタログスペックで差別化を図るのではなく、ミッションを達成させ続けていることを顧客に伝えることで、ブランドを構築していき、かつSDGsに取り組んでいくことで、社会貢献と収益拡大を両立させることが出来るようになります。

ジョブ理論は、新しいマーケティングの考え方として広まり始めています。

SDGsの取り組みと、新たなマーケティングの取り組みで収益拡大をとお考えであれば、一度弊社にご相談ください。

 

 

 

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