技術経営(Management Of Technology;MOT)は、一言でいうと「技術を活用して事業を行う企業や組織が、技術の新たな可能性を見極めて事業の持続的な発展に結びつけ、経済的価値を創出していく経営」ということになります。

技術経営(MOT)の起源は、1962年にマサチューセッツ工科大学(MIT)ののロバーツ教授らによって開かれた研究分野と言われていて、1981年に同じくMITでMOTが新設されたということです。

授業内容は、経営学修士(MBA)の内容+テクノロジー・マネージメントで、テクノロジー・マネージメントには、経営工学や生産管理、オペレーションマネージメントやプロジェクトマネージメントなどが含まれており、さらに、新規事業創造やベンチャー企業のあり方など、イノベーションに関わる内容などを学ぶものです。

MOTの目的は、製造業のための経営学によって優れた経営者、リーダーを育成することと、経営学のわかるエンジニアを育成することで、製造企業の組織力向上を目指すことの2面があるように思います。

日本では、延岡健太郎さん、藤本隆宏さんなどが、ものづくり経営や技術経営などに造詣が深く、お二人の著書はとても参考になるものです。

参考図書:MOT[技術経営]入門(延岡健太郎著)日本のもの造り哲学(藤本隆宏著)

 

技術経営(MOT)の全体像

製造業企業にとって、技術経営(MOT)から期待するものは正しい経営戦略を導くことだと思います。

技術経営の中での重要要素は、価値創造価値獲得であると言われています。

下図は、弊社が考える技術経営(MOT)の全体像です。

 

 

製品や技術を生みだす(開発、生産プロセス含む)価値創造と製品や技術によって利益を生み出す価値獲得というのが、技術経営の中核にあって、競合よりも付加価値の高い製品を生み出し、利益を最大化するためにイノベーションを生み出す経営が求められ、イノベーションを効果的に生み出すための組織能力、リーダーシップなどが研究され、コア技術戦略などによって継続的な競争優位な状況を作り出す、というようなことを経営として考えていくことが技術経営なのです。

今、日本の製造業にMOTが必要なのは、日本企業が価値創造ばかりに注力し、価値獲得が弱いということが挙げられています。

「技術立国日本」などという言葉もありますが、高い製造品質でかつて世界を席巻していた日本製品が、いまだに品質や技術に拘り続け、技術を利益に変える価値獲得に目覚めていないのではないかと思っています。

また、社会環境の変化、地球温暖化などによって世の中の不確実性も日に日に増しています。

こうした状況の中で、日本の製造業が生き残って、再び世界を席巻するために、技術経営(MOT)の考え方を多くの企業経営者、そしてエンジニアに身につけて欲しいと思っています。

 

コア技術戦略で経営を安定化させる

 

技術経営(MOT)の中で、コア技術戦略はもっとも有効な経営安定化策だと思います。

スリーエムの接着技術、味の素のアミノ酸、シャープの液晶技術などは、コア技術戦略として非常に有名です。

富士フィルムが、アナログ写真のフィルムビジネスからコア技術を転換して、化粧品や医療の分野にコア事業シフトした話も、成功事例としてよく知られた話だと思います。

コア技術戦略とは、特定の技術分野に集中することによって競争優位を確かなものとし、さ らにはその技術をベースとした新製品を次々と開発・導入する戦略であると言えます。

しかしながら、コア技術もいつまでも安泰とは言えません。不確実な市場、競争環境を考えるとコア技術をベースにそれを発展させながら市場も発展させるという展開型のコア技術戦略が必須になっているように思います。

 

 

理想的なコア技術戦略は、競合の追随を許さないように発展し続けるのだと思います。

さらに、収益拡大という最大目標を達成するためには、顧客価値の増大に結びつくようなコア技術展開をしていく必要もあります。

つまり、展開型コア技術戦略によって収益拡大という目的を達成するためには、組織のマーケティング能力を強化する必要があるのだと思います。

 

MOTによってNo.1のポジションを確立する

 

技術経営(MOT)の考え方を導入することで、企業のポジショニングを明確にすることが重要です。

コア技術、あるいはコアコンピタンスの軸と、もう一つは他社にない尖がるための項目、例えばビジネスモデル、あるいは顧客との関係性、あるいは独特の哲学など、なんでもいいので顧客に対してインパクトを与えられるようなものを作り出して、2つの軸で競合他社と比べてNo.1を名乗れる比較方法で自社のポジションを定めるのです。

2軸のポジションは、顧客を強く意識したマーケティングの考え方と、経営戦略と合致した戦略思考の考え方とリンクすることで、顧客に強い印象を残し、ブランド確立に繋がります。

フィリップ・コトラーのマーケティング3.0で、環境変化が激しく、また貧困などの社会問題に世界が取り組んでいかなければならない中で、顧客の企業に対する期待は、企業が社会に対する価値をアピールして、社会貢献と収益を両立できる企業を選んでいくようになるとコトラーは言っています。

社会における企業の価値を深く考えて、自社のコア技術などの資産をどのように生かして差別化していくのかを真剣に考えるべきであり、それが技術経営(MOT)なのだと思います。

 

フューチャーシップの技術経営推進

製造業、メーカーや先端技術によって独自のハードウェア製品を軸にして事業を展開しようとする企業、いわゆる技術オリエンテッドな会社にとって、事業を成功させる、あるいは利益を最大化させるための戦略はどうやって作るかを、いっしょになって考えるのが「フューチャシップ」のミッションです。

「技術」と「経営」を最大限に効率的に組み合わせて、企業の収益を最大化させるのが「技術経営」です。

技術経営で最も重要な要素は、

  • 市場はあるのか?(顧客ニーズ)
  • 差別化できるのか?(技術革新、イノベーション)
  • 本当に儲かるのか?(お金を動かすビジネスモデル)

の3つです。
この3つのいずれかが欠けてもビジネスは成功しません。3つの要素をバランス良く保ちながら事業を拡大していくことが技術経営だと言えます。

mot

 

技術革新、技術でイノベーションを起こすのは技術者として当然と思うものの、事業の成功という視点を含めるとなかなかうまく行きません。

最近でこそ、プロダクトアウト vs. マーケットインと顧客指向が重要だと言われ始めていますが、技術者は言葉でわかっていてもどうしても「いいものを作れば売れる」という想いを断ち切れません。
というよりも、どうやってお客さんが欲しいもの、潜在ニーズを掴んでイノベーションを起こすことができるかが、わからないだけなのかもしれません。

本来、製品開発とは、お客様が望むものを先回りして生み出し、お客様のもとに届けることが本質的な使命なのです。

日本企業はずっとそれをやってきたのですが、いつのころからか一度いいものを作れば、あとは如何に効率的に、そして大量に高品質で作り出すかというところに競争の軸が移ってしまいました。

これによって大手企業は大きな利益を生み出し続けたので、経営としては間違った選択ではなかったのですが、時代が変わってお客様の嗜好も多様化し、お客様の選択肢がハードウェア製品単体でなくソフトウェアやサービスと一体となったソリューション全体で考えられるようになると、いつしか作れば売れるということが遠い昔のこととなってしまったわけです。

その時代の変化についていけずに、イノベーションを生み出せなくなった企業が多く見受けられます。

本質は、「お客様が欲しいと思うものを先回りして開発する。」という単純なことだけなのです。

この愚直な「本質」を再び取り戻すための手法があります。

トヨタがやっている「リーン製品開発」です。(参考:トヨタ式リーン製品開発とは

トヨタの人たちは、自分たちが特に変わったことをやっているという意識すら持っていませんが、ひたすら「本質」をつらぬく”プロセス”を教えてくれます。

当たり前のことを当たり前にやる開発プロセス。でも日本人が失いかけている開発手法でもあります。

本質に立ち返るということ、顧客視点でイノベーションを起こすということで、自ら会社を変革することができます。

顧客視点と技術革新はこれで結びつけることができます。

でも、技術者がもうひとつ苦手なのが、お金を稼ぐということではないでしょうか。

お金儲けをなんか悪いことをしているように感じてしまうのが技術者です。でも、利益を生み出さないのは企業にとって最大の”悪”であるということを認識すべきです。

新しい技術=ビジネスモデルではありません。ビジネスモデルは「お金を動かす」ためのしくみ作りです。

顧客視点で新しい技術で画期的な製品やサービスを生み出しても、お金儲けができなければ企業にとって意味がありません。
ビジネスモデルは、それだけでひとつの学問になるかもしれませんが、お金の動かし方はいくつかのパターンとしてこれまでの歴史が教えてくれます。

民泊(AirBnB)やウーバーも、ビジネスモデルはまったく新しいものではありません。
潜在市場を開拓して、お客様が使いたい形、使いやすい形で提供したものです。

「経営学」はもっと身近なものとして、多くの若い人たちが学んでほしいと思っています。

起業が盛んなアメリカでは、多くの人たちがMBAを取得します。

MBAを取得して大企業若くして経営者になっていく、あるいは、若くにして起業をする、さらにいうと会計士の資格をとって起業コンサルやベンチャー投資の仕事につき、次のステップで経営者になっていく。

日本でももっとプロの経営者、あるいは技術者であって経営がわかる人材をもっとたくさん作っていかなければ、グローバル競争の中で勝ち進んでいけません。

「経営がわかる技術者、さらにグローバルで戦える人材育成」がフューチャーシップの一番のミッションです。