ジョブ理論ということを聞くが、どんな手法なのか?

新しいマーケティングの考え方としてジョブ理論という言葉があることを知った。ハーバードビジネススクールのクリステンセン教授の「ジョブ理論」を読み、考え方としては理解できたが、実際にどうやって現場で展開するのかを知りたい。

ジョブ理論という言葉は、クリステンセンの本のタイトルとしてつけられたことで使われるようになりました。元はJobs to be done手法、とかジョブズ法などと呼ばれていたものなのですが、実はこのJobs To Be Done手法には2つの異なる考え方があります。

ジョブ理論のルーツ、2つの異なる考え方、それぞれの使い分けについて解説します。

本記事の内容

  • ジョブ理論のルーツ
  • 2種類のジョブ理論を使いこなす

 

ジョブ理論のルーツ

クリステンセン教授の「ジョブ理論」が日本で出版されてから、日本企業でもジョブ理論を活用した新製品開発や新規事業開発を試みる動きがみられるようになりました。

ジョブ理論のジョブは、顧客がやらなければならない仕事(ジョブ)、英語でいうとJobs to be done ということで、製品とは直接関係ないことを含めて、顧客がどうしてもやる必要があることに着目したイノベーションを起こす考え方です。

クリステンセン教授は、'顧客は製品そのものをみて購入を決めているのではなく、やらなければならないジョブをうまく片付けるために製品を採用している'と言って、ジョブ理論の意味を説明しています。

弊社では2017年より、クライアント向けの製品開発革新支援活動のなかで、ジョブ理論を紹介し、その活用方法を製造業企業に指導してまいりました。

ジョブ理論は、Jobs to Be Done 手法として欧米では知られていますが、その起源はクリステンセン教授よりも前、Anthony Ulwickによって導かれたアウトカム・ドリブン・イノベーション(ODI)だと言われています。

Ulwickは、2002年にハーバード・ビジネス・レビューの中で、ODIの概要を発表し、2005年に”What Customers Want”を出版して、ODIによる製品やサービスをブレークスルーする方法を紹介します。さらに2016年に”Jobs To Be Done”を出版して、ジョブ理論となっていくわけです。

 

一方、ハーバード・ビジネス・スクールの クリステンセン教授は「イノベーションの解」の中で、今のジョブ理論の考え方について触れています。

実は、1990年代後半ころに、UlwickからODIの基本的なコンセプトがクリステンセンに伝えられて、お互いにこの考え方をブラッシュアップしてきたと言えると考えています。

クリステンセン教授は、彼のいくつかの書籍の中で、ミルクシェークのプロモーションを例にとってジョブ理論の基本的な考え方を紹介し始めています。彼の講演の中でも良く聞かれる話です。

UlwickがJobs To Be Done”を出版するのと同じ時期に、クリステンセンが、”Competing Against Luck”を出版します。これが、「ジョブ理論」として日本で発表された原本になります。

Competing Against Luck、すなわち、これまで行われた多くのイノベーションは、実は幸運に恵まれただけで、この幸運と戦っていかなければ、企業の本当の成功はない、という意味が込められています。

 

UlwickのJobs To Be Done法(JTBD法 、又はジョブ理論)と、クリステンセンのジョブ理論は、実は内容は少しばかり異なります。出発点の顧客が片づけなければならない仕事(Jobs to be done)は同じなのですが、そこからどうやって企業活動の中で変革を起こしていくかというところが違うのです。

 

 

2種類のジョブ理論を使いこなす

筆者と、グローバリング(株)の稲垣社長とは、2017年ことから欧米で活用されていたJobs to be done手法に着目し、活用されている実態を調べていました。

そして、2つの違いに着目し、我々独自の呼び方で、Ulwickのジョブ理論をJTBD-Pと呼び、クリステンセン教授のジョブ理論をJTBD-Bと呼ぶことにしています。
Pは、Productの'P”で、Bは、Businessの'B'です。

 

 

Ulwickのジョブ理論(JTBD)は、フレームワークが明確で、どちらかというと既存製品を顧客価値に基づいて改善していく場合に有効であることから、Pと名付けました。

JTBD-P、つまりアウトカム・ドリブン・イノベーションでは、ジョブは対象となる製品を利用することを考えた時の、顧客側からみたやるべき仕事をジョブの流れとして定義します。

製品を準備して、使い方を設定して、動作して、監視して、修正して、などの一連のジョブを定義し、それぞれのジョブに対する顧客の期待値、つまりアウトカムを洗い出します。

それぞれのアウトカムについて、重要度と現状の満足度を顧客から情報収集することで、開発として注力していくところを見つけていきます。

 

 

欧米の大手企業で活用された事例が示されていますが、例えば、ボッシュが後発メーカーとして、電動のこぎりを北米市場に展開するときのストーリーとともに、ジョブ理論の手法、フレームワークが紹介されています。

一方、クリステンセン教授のジョブ理論は、概念を深く理解して、大きく言うと企業の在り方から考え直していくようなアプローチになります。新規事業やまったく新しい考え方を導くという意味で、BusinessのBを付けることにしました。

大きな捉え方をすると、クリステンセン教授のジョブ理論は、フィリップ・コトラーのマーケティング3.0の考え方とも共通することが多く、開発とかマーケティングとかという部分的な考え方ではなく、全社規模で考えていくような課題なのだと思っています。

 

 

理論自体は意外とシンプルなので、考え方はわかるけど、どうやって実践するかがわかりづらいという声を多数聞きます。

ジョブ理論についての解説本や、Web上の記事が非常に多い事でも、このことがわかると思います。

 

参考記事:ジョブ理論とは (Jobs-To-Be-Done)-どう実践するかわかりやすく解説します

****ジョブ理論の考え方をわかりやすい言葉でお伝えします***

 

弊社では、この2つのジョブ理論を、しっかり区別してお伝えしています。
クライアント様の状況に合わせて、双方の理論を組織改革の中枢に据えて、経営計画、開発計画を立てて実施していく必要があると思っています。

JTBD-B、つまりクリステンセンのジョブ理論は、アメリカではスタートアップ企業も活用し始めているようです。

ただし、スタートアップ向けの手法、考え方としてはエリック・リースの「リーンスタートアップ」という本が有名で、長らく起業家にとってのバイブルのような扱いを受けていました(今でも活用されてます)が、ここにきて、ジョブ理論によって起業を成功させたいという流れもできているようです。

 

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ジョブ理論のスタートアップへの活用事例をたくさん紹介している本があります。Alan Klement の”When Coffee and Kale Compete”という本です。

 

Alanの主張は、ジョブが人間の進化への欲求、そして新しい自分(New Me)を発見することが、ジョブを求めることへの手がかりだというところです。
女性が化粧品を求めるのは、優れた'化粧品'を探しているのではなく、自分を変える、新しい自分をどうやって作るかということを実現するために、何か一番いいものを探している、ということです。

この本の中で、インドの家電メーカーがインド国内の貧困層向けに開発した超小型冷蔵庫が、競合を見誤って大失敗する事例が示されていますが、この計画にクリステンセンが関わっていたと暴露して、クリステンセンを批判しているくだりがちょっと興味をそそります。

クリステンセンのジョブ理論も、Alanのジョブ理論も、我々はJTBD-Bとして分類していますが、このジョブ理論は、顧客のジョブをどう捉えるかということ、ジョブは新しいものではなく、ずっと普遍であること、そしてジョブに対するソリューションが、時代とともに変化していること、さらに、ジョブとソリューションの関係の中で、人間が持つ感情が存在することに注目しています。

特に、新しいソリューションに対する抵抗、つまり、心配事やそれまでの習慣によって新しいことを躊躇してしまう心理にどうやって打つ勝つか、ということがイノベーションを起こすポイントだと言っています。

また、新しいソリューションに対するネガティブな心理だけではなく、反対に新しいことを後押しするポジティブな感情もうまく捉える必要があると説いています。

JTBD-Bは、個人個人の考え方に根付くことで新しいアイデアを生み出したり、イノベーションを起こす可能性を秘めていますが、個人の力で変革することだけではなく、組織全体、あるいはトップダウンで会社ぐるみで大きな変革をする可能性も示しています。

企業の経営方針やミッションをジョブ理論に即して設定することで、社員全体の想いを一つにして大きなイノベーションを起こす事例なども紹介されています。

コトラーのマーケティング3.0が、まさにマーケティングは企業全体で取り組むべく課題であって、「世界をより良い場所にすること」を一番上位の目的にしていることと一致しています。

2つのジョブ理論をどうやって活用するか

さて、JTBD-PとJTBD-Bをどうやって使い分けるかですが、多くの企業で、どちらも必要だと私は思っています。

前述したように大きく分けると、既存製品の改善を考えるとき、例えば家電製品でメーカー側としては気づきにくかった新しい機能によって顧客価値を上げたいというような場合はJTBD-Pを活用し、既存製品から大きくジャンプしたい、あるいはまったく新しいコンセプトの製品を生み出したいとき、さらには新規事業として新しいことにチャレンジするときにはJTBD-Bを活用するということになります。

私が関係している多くの日本企業では、既存事業を維持し継続していくということと、新たな事業の柱を築くという2つの異なる方向性を同時に行いたいという企業が多いように感じています。

この場合、既存事業を継続する中で、長い期間での競争で疲弊している中で、まずはJTBD-Pによって、ジョブ理論の基本を理解し実践しつつ、既存製品での小さなヒットを続けて起こす体質に変えることを考えて欲しいと思っています。

ある意味、しっかりしたフレームワークがあることもあって、エンジニアにとってはJTBD-Pの方が理解しやすい、あるいは成果を出しやすいということもあります。

いきなりJTBD-B、つまりクリステンセンのジョブ理論を制覇しようとすると、ふわっとした理論でわかったようで使い切れない状況になりがちだと思います。

もちろん、既存事業よりもとにかく新製品、新規事業が急務であれば、JTBD-Bを最初から導入することが推奨されますが、許されるならば、まずはJTBD-Pを展開してみることをお勧めします。

JTBD-Bは、ある意味、意識改革であって、フレームワークで解決できないので、トップ、ミドル、現場が一体となって意識改革していくための施策が必要です。

参考記事:ジョブ理論を実践するためのフレームワークを教えます

現場のレベルで、一人ひとりがジョブとは何か、機能レベルのジョブの流れ(つまりストーリー)、進化への欲求としての上位のジョブ、ジョブに対するソリューション、ソリューションに対する顧客の心理をトータルで理解し、それら全体を含めて初めて本当の顧客思考として認知することで、従来の製品開発の在り方を根本的に変えていくことが必要だと思っています。

一人ひとりの教育と、同時にトップの理解、考え方を変えていくための推進力が必要です。

弊社の基本的な考え方は、マーケティングと製品開発は一体であるべきということです。
もっと言うと、製品開発もマーケティングの中の一つ、あるいはマーケティング自体が全社で取り組むべきものと考えています。

日本企業は、製造品質で世界No.1になり、一時代を謳歌しましたが、市場、つまりマーケットはものすごい勢いいで変化しています。
マーケティングの考え方もそれに合わせて、大きく変わっているのですが、どうも多くの日本企業がそれについていけていないように見えます。

マーケティングの考え方って、T型フォード、つまり自動車がこの世に生まれたころから始まったに過ぎない、新しい考え方で、まだ100年もたっていない中で変化し続けています。いつまでもSTPマーケティングに留まっていては世界から置いてきぼりになってしまいます。

ジョブ理論は、マーケティングの進化の過程の一つの解になると思われます。

また、ジョブ理論とコトラーのマーケティング3.0、あるいは4.0の目指すところと、共通点が多数あると考えています。

フューチャーシップ(株)のコンサルティング・サービスでは、開発組織の改革、開発プロセスの革新活動で、ジョブ理論とマーケティング理論を活用しています。

ご興味ありましたら、お問い合わせください。

 

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