製品企画、あるいは製品開発で顧客の潜在ニーズを掴んで、その潜在ニーズに応える製品を思いつくことが出来れば、ヒット商品になる可能性は格段に高くなります。
しかしながら、顧客自身も気づいていない潜在ニーズを見つけるのは至難のワザなのかもしれません。
本記事では、顧客の潜在ニーズの見つけ方について、3つの方法を紹介していきますが、いずれの方法の場合も、鍵となるのは顧客の行動です。
顧客の行動を想像、予測、そして実際に観察するなどによって、潜在ニーズを発見していきます。
弊社で推奨する潜在ニーズを見つける方法は、次の3つです。
- デザイン思考
- ジョブ理論
- ジョブ理論+ストーリー思考
潜在ニーズの見つけ方を、やさしく、そしてわかりやすく説明していきます。
デザイン思考による潜在ニーズの見つけ方
デザイン思考は、もともとはデザイン工学やデザイン研究に関する文献などが起源だと言われていますが、現在の「デザイン思考」は、デザインにおける思考法をビジネスにおける課題解決のために活かすアプローチ方法として捉えられています。
デザイン思考をビジネスに最初に展開したのは、スタンフォード大学のデビッド・ケリーという人で、この人がデザインコンサルタント会社IDEOを創業し、そこからデザイン思考が広まっていきました。
デザイン思考は、狭義には、ユーザーも気づかない本質的なニーズを見つけ、イノベーションを起こしていくということになります。
まさに、潜在ニーズを見つける手法ということです。
デザイン思考のプロセスは、ハーバード大学のプラットナー教授が提唱する「デザイン思考の5段階」が参考になります。
- 共感
ユーザーを理解し共感するということですが、最も重要なところで、単に顧客指向ということではなく、ユーザーの言葉を鵜呑みにせずに、ユーザーの感情を自分がしっかりと持てるまで徹底的にユーザーになり切ります。 - 定義
ユーザー自身が本当の課題を理解していないという前提で、本質的で潜在的な課題を追及します。 - 概念化
定義された課題に対して、ブレーンストーミングなどでアイデアを抽出します。 - 試作
出されたアイデアを実際に使えるものとして具現化します。 - テスト
試作したものを市場に出して、顧客からのフィードバックを取り、本当に顧客が求めるものかどうかのテストをします。
この中で、4、5の試作とテストは、事業領域、製品領域などによって事情が異なるので、1~3、つまり共感、定義、概念化のところに注目してみます。
特に、共感と定義のところに、デザイン思考としての特徴がたくさんあります。
村田智明さんという方の「行為のデザイン」という本で、村田さんは顧客の行為を連続したもの、つまりストーリーとして捉えて、その行為、行動のバグ(問題点)を見つけなさいと言っています。
行為のバグは、顧客が本当は不満に思っていること、つまり問題がある事柄を、諦めて受け入れてしまっていて、それでもその行為には不自然さが表れている、つまりバグが行動に出ていると考え、顧客の不自然な行動から本当の課題を見つけるというものです。
明らかな不満は、誰もが口に出しますが、顧客が口に出さないで暗黙的に受け入れてしまっている、でも本当は課題があるものを見つけることができます。
ここで例を示してみます。雨の日に、ビニール傘を持ってコンビニに行くことを想像してみてください。
名前を書いていない、みんなが持っているビニール傘と区別がつきにくい傘を、コンビニの入り口に置いてある傘立てに入れることを何となく躊躇する自分を想像してみます。
あなたならどうしますか?
傘立ての中に入れずに、傘立ての脇に横にしておく人。
傘立ての端っこに、他の傘とは離しておく人。
傘立てに入れることを諦めて、店内に持ち込んでしまう人。
自分の持ち物でマークをつける人。
どうですか?色んな人がいるかもしれませんね。
これに対して、コンビニに対して、傘の区別がつけられないから何とかしろ、と文句を言う人はそうはいませんよね。
そうなんです。この不便さを多くの人が受け入れて我慢して、その中で自分なりの対応をしているのです。
デザイン思考による潜在ニーズの発見は、このような何気ない顧客の行動の中にある課題を見つけることなのです。
このようなことを考えていくのが、共感と定義ということになります。
では、定義された課題に対する概念化、すなわちアイデア出しは、ブレーンストーミング、KJ法、NM法などの手法がありますが、ここはまさにチームメンバーのアイデア勝負ですね。
サウナで一旦休憩するときに、濡れたタオルを掛けておくところに、番号札と番号の付いたクリップがペアになっていて、クリップでタオルをはさみ、自分の控えとして番号札を持っていく、というアイデアを借りてきて、コンビニの傘立てに応用するなどがアイデアとして出てくるかもしれませんね。
これはアナロジー思考と言って、他の領域からアイデアを借りてくるNM法の活用事例となります。
ジョブ理論による潜在ニーズの見つけ方
ハーバード・ビジネス・スクールのクリステンセン教授の「ジョブ理論」が日本で出版されてから、新たなマーケティング手法としてジョブ理論が日本でも活用され始めています。
ジョブ理論を一言で表すと「顧客は製品そのものを見て製品を購入するのではなく、片付けなければならない用事(Jobs to be done)をうまく片付けるために製品を採用している」という考えで、顧客の製品購買の動機を定義づけています。
ジョブ理論の詳細については、弊社でも以下のような記事を公開していますので参照ください。
ジョブ理論とは -どうやって実践するかわかりやすく解説します
ジョブ理論を簡潔にわかりやすく説明するには、クリステンセンが用いる事例が参考になります。
アメリカのファーストフード・レストラン(マクドナルドと思われる)で、ミルクシェークの拡販をしようとしてマーケティング調査を行い、顧客を層別し、好みの味やカップの大きさ、形状などを分析して、新しい商品のトライアルを行いますが、売上は全く変化しません。
そこで別のチームが、店の前で一日中、ミルクシェークを買っていくお客さんを目視で観察します。
何時ころ、どんな格好で、他に何を買っていくかなどを細かく記録していくと、一つのピークが朝8時までの時間帯で、買っていく人は一人でスーツを着たビジネスマン、ミルクシェークだけを買って車でさっと来て、さっと帰っていくことがわかります。
翌日、買った人にインタビューをして、ミルクシェークを買ってどんな用事を片付けるのか、あるいは同じ状況のとき、以前、別のものを買ったことがあるかなどを調査します。
わかったことは、アメリカで車で通勤するビジネスマンが、1時間程度の通勤時間の退屈さをもっとも快適に満たしてくれるのがミルクシェークであることがわかります。
コーヒーではすぐに飲み終えてしまう。
バナナは皮をむくのが大変、しかもすぐに食べ終わる。
ベーグルは味がない。何かをつけて食べるのは運転中は難しい。
チョコレートは食べた後に罪悪感がある。
ミルクシェークは粘り気があって、飲み終えるのに20分以上はかかる。
適度にお腹も満足させてくれて、片手で持てる。
つまり、コーヒー、バナナなど他のライバルよりも、もっともうまく「通勤時間の退屈さをしのぐ」という用事を片付けてくれるというわけです。
ミルクシェークの競合は、他社のミルクシェークとは限らないということを教えてくれます。
つまり、顧客のジョブを適切に捉えると、そのジョブに対する正しいソリューションが見えてくると同時に、ジョブに対しての正しい競合もわかってくるということになります。
ジョブそのものを正しく捉えることが、潜在ニーズを発見する手掛かりとなるということです。
ジョブ理論+ストーリー思考で潜在ニーズを見つける
弊社がもっとも推奨する潜在ニーズを見つける方法は、ジョブ理論とストーリー思考を組み合わせた考え方です。
ジョブ、つまり顧客が片付けなければならない用事(Jobs to be done)をストーリーで繋げます。
例えば、3歳児を抱えるママさんたちの日常をビデオストリームのように想像してみます。
ベビーカーに子供を載せて買いものに出かける。
最寄りまで歩いて行って、電車に乗って隣町のデパートへ向かう。
駅には階段があって、エレベーターで昇ろうとすると点検中で使えなかったりする。
電車では混雑時にベビーカーで人々の邪魔をしないように気を使う。
デパートで買った荷物とベビーカーとでちょっと大変なことになる。
など、顧客のやるべきことをストーリーとして捉えて、その時々の顧客の困りごとを想像していって、新たなソリューションを考えていくというのが、ジョブ理論とストーリー思考を組み合わせた潜在ニーズの見つけ方になります。
さらにこのプロセスを発展させて、顧客の進化への欲求、高いレベルの欲求を考えて、顧客の欲求の満足に繋がるようなジョブストーリーの改善を考えていくフレームワークを弊社では勧めています。
上図は、家事をする主婦の日常からジョブ・ストーリーを抽出し、顧客の高いレベルの欲求として、毎日の食事を楽に美味しいものを食べたい、と設定し、ジョブ毎の現状のソリューションと、そのソリューションに対する不安、困りごとなどを考慮しながら新しいアイデアを考えていくというフレームワークを示しています。
さらに、顧客の高いレベルの欲求と、企業のミッション、つまり顧客から見た企業の価値が結びつくことで、企業ミッション、顧客の欲求、新製品のアイデアが繋がって、ブランドイメ―ジを向上させることに繋がります。
潜在ニーズを見つけながら、マーケティング思考を取り入れ、ブランド戦略に繋げることが出来るやり方だと思います。
参考記事: 「フィリップ・コトラーの理論からマーケティング思考を進化させる」
参考図書:ジョブ理論による事業創出
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ジョブの考え方や、実際の製品開発の失敗事例、成功事例からジョブ理論についての考察をしています。
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