新しいコンセプトの商品、新規事業を立ち上げたいがどうすべきか?!
既存事業も頭打ちになってきている。良い技術を持っている自負はあるが、それを生かして新規事業に打って出たいが、事業開拓の経験者が少なくてどうやったらいいかわからない。体制面、人材面、戦略面など、どんなアプローチをすべきかを知りたい。
大手企業でオープンイノベーションを推進し、新規事業を手掛けてきた経験から、コア技術を生かして新規事業を立ち上げるためのポイントについてお話しします。
結論から申し上げると、大きくやるべきことは次の5つです。
- R&Dマーケティングの立ち上げ
- ベンチャー企業の活用
- POC(Proof of Concept)の体制整備
- 商流の設計
- 事業計画の合意
1~3は、自社の技術を生かして事業アイデアを導き出すために必要で、開発部門主体で行う項目です。4、5については、事業ネタがある程度確定した段階で、営業部門と事業企画部門とで行う項目です。
本記事では、1~3の自社技術を生かす事業アイデアを具体化するまでのポイントについてお話ししていきます。
本記事の内容
- コア技術を生かした新規事業立ち上げのツボ
- R&Dマーケティングの立ち上げ
- ベンチャー企業の活用
- POC(Proof of Concept)の体制整備
- 技術経営(MOT)からみたイノベーションを起こすツボ
- 技術経営(MOT)からの学び
- イノベーションの3つのチャンス
- 事業を成功させる3要素
コア技術を生かした新規事業立ち上げのツボ
自社技術を生かした事業創出は、エンジニアを中心に事業ネタをつめていくのが最善と考えています。
多くの企業で、新規事業を立ち上げるというと、実は様々な組織が手を挙げて参入してきます。
エンジニアは事業を知らないだろうと、企画マン、営業畑や経理系の人たちは、自分たちが中心に事業開発をしようとしますが、まあ、組織の壁を取っ払って協力して進めたいものです。
ただし、自社の技術を知っているのはエンジニアであって、また、新たな技術開発や、他社の技術との連携について正しい判断が出来るのもエンジニアです。
特に、成功するための事業ネタを作り上げるところは、エンジニア中心のチームでやるべきだと考えます。
コア技術を生かした事業アイデアを発見して詰めていくまでのやるべきことを説明していきます。
R&Dマーケティングの立ち上げ
まず第一歩は、エンジニアが製品軸の考え方から、顧客軸に思考を変えるところです。
いわゆる製品に対するニーズを探索するのではなく、製品を離れて顧客が本当にやりたいこと、しかも顧客自身も気づいてないことを発見していくために、エンジニアにマーケティング思考を身につけさせ、マーケッターとしての使命を与えます。
弊社では、コトラーのマーケティング3.0や4.0といった進化したマーケティング理論や、ハーバードビジネススクールのクレイトン・クリステンセン教授が唱えるジョブ理論を新規事業開拓に取り入れるノウハウをお伝えしています。
市場の急激な変化に追随すべく、新しいマーケティング感覚をもったR&Dマーケティングを組織することが、新規事業を成功させる第一歩です。
R&Dマーケティングチームを立ち上げて、メンバーに一通りマーケッターとしての知識をつけさせて、自社技術を使った事業アイデアをつめていきます。
弊社では、ジョブ理論を使った事業創出の方法として、「ジョブ理論のフレームワーク」を指導しています。
参考記事:ジョブ理論を実践するためのフレームワークを教えます
簡単に説明すると、下記のような手順で事業アイデアを出していきます。
- 顧客の行動(ジョブ)をストーリーとして捉える
- 各ジョブに対する現状のソリューションをマップ化する
- ソリューションから関連事業マップを作成する
- 各ソリューションに対する顧客の欲求を洗い出す
- 顧客の満足度を上げる課題抽出→アイデア出し
- アイデアの精査→事業ネタ
顧客の課題から、アイデア出し、アイデアと自社技術とのマッチング、あるいは、自社技術で足りない課題を抽出します。
ベンチャー企業の活用
顧客満足度を上げる課題と自社技術とのマッチングで、自社に足りない技術をどうするかが次の課題になります。
方法は2つです。
- 自社でこれから開発する
- 他社の技術を活用する(提携、買収など)
他社の技術を活用する場合、他社とのアライアンス、産学連携、ベンチャー企業の活用などがあります。
すべてにアンテナを張るのが一番いいのですが、限られたリソースであるなら、ベンチャーを活用するのがお勧めです。
いわゆるオープンイノベーションということですが、ベンチャー企業は、自分たちが成功するためにオープンであり、大手企業からの提携や買収を歓迎してくれます。
さらに、ベンチャーをウォッチすることで、ベンチャーの後ろに大学関係が付いていたり、ベンチャーを巡って集まってくる大手企業とも接点を持つことができます。
今はコロナでベンチャー企業の活動もだいぶ制限はされているものの、オンラインシステムを使ったりして、様々なイベントでベンチャー企業の売り込みのためのプレゼンが行われています。
多くのイベントは無料で参加できるので、そこでベンチャー企業の動き、技術のトレンドなどを掴みながら、自社に欠けている技術を補完してくれるベンチャーを探すことができます。
さらに、ベンチャーを探索しているライバル企業の動きなども知ることができるので、ベンチャー企業のウォッチは、新規事業を立ち上げる組織であればマストでやるべくことだと思います。
POC(Proof of Concept)の体制整備
技術をベースにした製品やサービスを開発して、そこから新規事業を立ち上げるならば、POCを素早く回せる体制がとても重要になります。
昨今、モノづくり企業であっても、エンジニアが自分一人で、手足を動かして思いついたモノを作るということが弱くなっていて、それがメーカー企業の弱体に繋がっているのではないかと言われたりもしています。
アイデアを思いついたら、四の五の言わずに、簡単な試作をやってみて、試作を使って顧客がアイデアを受け入れるものかどうか、本当に欲しいものかどうかをテストする体制を作って、試行錯誤を繰り返して、事業ネタを確かなモノにしていくことが成功の鍵になります。
数年前に、MAKERS MOVEMENTということが叫ばれて、Fabスペースがあちこちに出来たのですが、Fabスペースは事業として成り立たずに、その多くがつぶれてしまいました。
Fabスペースを共有するというビジネスはうまく行かなかったのですが、自社内に小回りのきく、簡単な実験スペースを新規事業開拓用に持つことは、とても意義があることだと思います。
モノづくりに限らず、アプリ開発なども行い、また、ベンチャー企業や外部との交流拠点ともすることで、オープンイノベーションが加速します。
新規事業を一発だけでなく、継続的に生み出していくために、アイデアを事業ネタに発展させる場所、外部連携のHUBになるような空間を作りましょう。
技術経営(MOT)からみたイノベーションを起こすツボ
エンジニアが顧客起点の思考になって、アイデアを出し、自社技術の活用、自社に足りない技術の洗い出し、アイデアをPOCを通して洗練していくプロセスが確保できたら、次は出てきたアイデアから本物を選び出すことです。
いわゆる多産多死の状態を作りだすことで、ヒット商品に繋がるアイデアを生み出す可能性を上げられます。
たくさんのアイデアから実際に事業展開するものを選ぶところから、企画、営業、経理などのビジネス系の人たちを巻き込みます。
良いアイデアを生み出すための押さえておくべきポイントについて説明します。
技術経営(MOT)からの学び
新たな事業を成功させるためには、3つの壁を越えなければならないと言われています。
- 基礎研究や研究開発で新しいコンセプトを生み出す「魔の川」と呼ばれる壁。
- 実用化、製品化の段階で越えなければならない「死の谷」と呼ばれる壁。
- 製品を市場に出してから競争に勝ち残っていくための「ダーウィンの海」と呼ばれる壁。
新たなコンセプトを生み出す、いわゆる「0」から「1」を生み出すのは、なかなか簡単ではありません。
大量生産で一時代を築いてきた多くの日本企業は、「1」→「10」→「100」という、いわゆる事業化のところは得意とするところなのですが、「0」から「1」を生み出すところと、事業化をうまくつなげられない傾向があります。
折角いい技術やアイデアがあっても、それを生かし切れずに無駄にしてしまうことも少なくありません。
「0」から「1」を担う人や組織と、「1」から「100」を担う人や組織のマッチングを取らなければなりません。
ひとつの企業内で、研究所で出たアイデアを事業部で事業化する場合なども、組織の壁や双方の都合、事業部のやっている既存事業の忙しさなどで、なかなかうまく行かないケースがあります。
最近では、ひとつの企業で新しい事業を起こすのは限界があると、企業間の連携やベンチャーの取り込みなどと意識して、オープンイノベーションということが多くの会社で取り上げられているのですが、あまり多くの成功事例を聞きません。
「0」から「1」を行う側は、「0」から「1.1」を目指し、「1」から「100」を行う側が、「0.9」から「100」を目指すための仕掛けが必要なのです。
双方の「事業化」に対する認識と、イノベーションの本質を組織内で周知するとともに、その組織体制を構築することで事業立ち上げを推進しましょう。
参考記事:イノベーションを生み出すしくみ
イノベーションの3つのチャンス
また、多くの人が、「0」から「1」を生み出すことがイノベーションだと理解する傾向があるのですが、実は、死の谷もダーウィンの海も、イノベーションの大きなチャンスであることを再認識する必要があります。
特に、企業にとっての収益面から考えた場合、「100」に近づいてからのブレークスルー、つまりダーウィンの海は、大きなイノベーションのチャンスであり、しかも、複数のチャンスがあることを意識して、3つの壁に適切にリソースを配分するこをが重要になります。
技術者の多くは、イノベーションは魔の川がメインで、死の谷がサブであると思いがちですが、実は3つともにイノベーションのチャンスがあり、しかも最も顧客にとっても、企業にとってもインパクトが大きいのは、ダーウィンの海であることに気づいていない人が多いと思います。
3つのチャンスをしっかりと意識して、戦略的にイノベーションを起こしていくことが大切です。
参考記事:「ダーウィンの海」を越えよう
事業を成功させる3要素
事業を起こすのは、製品やサービスを作りだすことではなく、製品やサービスを通してお金を動かすことです。
いくら良い製品を作っても儲けられなければ事業成功とは言えません。
最先端の技術を使っていても、顧客が欲しいものでなければ買ってもらえません。
ニーズがあっても、なぜ貴社から買うか、その選ばれる理由がなければヒット商品になりません。
顧客ニーズ、差別化、ビジネスモデルの3つがすべてそろうような、開発戦略や社内の仕組みを構築することが成功の条件です。
新規事業の検討をしている段階で、エンジニアは技術的な部分、つまり差別化のところを中心に考える傾向があります。
反対に、ビジネス系の人はニーズを中心に話を進める傾向があります。
一番、なおざりになりがちなのは、どうやって儲けるかというところです。
エンジニア、事業系の人に限らず、経験から3つの重要要素のバランスをしっかり見れる人は意外に少ないと思います。
事業は、3つのうち一つでも欠けたら成り立ちません。
多産多死で多数のアイデアをフィルターにかけるとき、この3つのバランスを見抜ける人材を持っている必要があります。
これは、いわゆるベンチャーキャピタリストのような才能を持った人材だと言えます。
新規事業立ち上げがうまく行かない企業のひとつの特徴は、この人材がいないことかもしれません。
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