技術報告書は製品開発に有効に使われていますか?
報告書を書く時間がなくて、いつも後回しになっている。報告書の内容を直属の上司だけは読むけど、組織内で広く共有されずに書きっぱなしになっていることが多いように感じる。報告書の書き方、運用の仕方を軽視する傾向に何となく気づいているけど、他の重要な課題に埋もれてしまっているように思う。
開発行為やアイデアを出すという重要な仕事以外で、問題解決、市場クレーム対応やその他の雑務に追われて、報告書の大事な役割が軽視されていることがあるようです。
技術報告書は、組織内の知識資産を蓄えるツールであると考え、報告書に対する考え方を改めることで、開発効率が大きく向上します。
トヨタのA3報告書文化から、会社の知識を結集した開発手法、開発プロセスを学んで組織改革に取り組みましょう。
本記事の内容
技術報告書の目的によって質が求められる理由
技術者の仕事とは、究極的には以下の3つだと考えています。
- 図面を書く(開発行為)
- アイデア(特許)を出す
- 報告書を書く
3つをバランス良くやっている会社もたくさんあるのだと思いますが、日程遅れの常態化、ヒット商品がなかなか出ないなどで悩んでいる会社の多くは、この3つのバランスが崩れているように感じます。
具体的には、1の開発行為の中で、品質問題や市場クレーム対応、あるいは多くの人が関わることによる雑務などに時間を取られ、アイデア検討や報告書に関する仕事の優先度が下げられているようです。
その中でも報告書を書くこと、それを活用することの意義が見失われているように思えています。
報告書にも異なる種類があって、それぞれ目的も違ってくるので、報告書の種類と目的をまとめてみます。
- 品質問題の解決レポート
- 品質問題の存在を周知する
- 品質問題の解決過程を共有し、再発を防ぐ
- 問題解決に対しするアプローチ方法を共有し、組織的に解決ノウハウを学ぶ
- 上司からの依頼仕事の経過&結果報告書
- 上司との約束に対する確認と結果に対する承認を得る
- 組織目標に対する経過&結果報告書
- 組織全体の活動状況をトップマネージメントに報告し、承認を得る
- 組織の成果、次ステップへの課題を明確化する
- 予算獲得、リソース獲得のための提案書
- 既定路線の活動から飛躍するための活動に対して組織の承認を得る
- 新たな発見、獲得した知識、ノウハウの報告書
- 共有することで、組織活動を効率化、活性化させる
- 組織内の重複業務を避ける
これらのうち、2、3、4については、報告する側と報告を受ける側が明確で、かつ両者の間で完結する報告であるため、両者間で報告書の完成度、質などが直接話されることになります。
問題は1と5になります。
1の問題解決に関する活動は、おそらく頻度も高く、問題の原因を突き止めて、解決策を探し出し、問題を収束させるということが大事であることは勿論のこと、その途中経過なども場合によっては関連する人々に報告する必要があると思います。
重要なことは一刻も早く問題を収束させることで、報告書はその事後処理として考えられて、報告する側も受ける側も報告書自体の質を軽視することがあります。当事者が内容をわかっているからOKとしてしまうのですが、実は問題解決の結果やアプローチ方法などは、その他大勢にとっても参考になる情報であって、組織内で活用していかなければならない重要な情報なのです。
5については、組織の管理者が報告を受けて承認することになりますが、本来、この手の報告書を活用するのは組織内の不特定多数ということになります。
1も5も、報告者の予想しない範囲で活用されるものであって、一過性のものでないために、長い間、そして広い読者に活用されるような質になっていることが望まれるわけです。
つまり、報告書の目的によって、報告書は社内の知識資産として広く活用されるように書かれなければなりません。
報告書が、広く読まれ活用されることで、組織が以下のように活性化されます。
- 社内の有用な技術が再利用される
- 報告書を通して社内の技術コミュニケーションが活性化される
- 同じ失敗を繰り返さない
いかがでしょか?
報告書を軽視することなく、報告書の書き方を改善することで組織活動を変革することができそうです。
実は、トヨタのリーン製品開発手法は、その重要要素がチーフエンジニア制、セットベース開発、A3報告書文化という形で知られていますが、リーン製品開発を実践して成功する究極の形は、本物のナレッジ・マネージメント・システムを構築することだと弊社では考えています。(参考:「リーン製品開発の完成形は本物のナレッジ・マネージメント・システム」)
知識を積み上げてイノベーションを起こすセットベース開発、蓄積される知識をA3報告書に残していき、A3で残された知識がしっかりと活用、再利用されて、新たな開発と過去の知識とを組み合わせることで、他社に負けない製品を早く開発するシステムを作るということです。
そして蓄積された知識が再利用されるためには、単に検索性を上げるだけではなく、一つひとつの報告書の質を高めることが非常に大事になります。
読んで役に立たない質の悪い報告祖をいくら積み上げても、組織活動に対して貢献出来ないというわけです。
参考文献:「トヨタ式A3プロセスで製品開発」
報告書の質を上げる3つのポイント
組織内で有用な技術が報告書を介して広まり、組織活動を活性化していくために報告書の質をどのように上げていくかを説明していきます。
ポイントは以下の3つです。
- 書きたいことを書く報告書ではなく、読みたい人が望む報告書
- 読み手が自分のための報告書だとわかるようなタイトルや見出し
- 読み手に伝える一連のストーリーとして、必要な内容だけを必要な順番で書く
書きたいことを書く報告書ではなく、読みたい人が望む報告書
報告書が組織内で再利用されるためには、報告書は多くの人に読んでもらわなければなりません。
多くの人に読んでもらって、活用されて始めて価値が出ます。
ということは、報告書を読者に選んでもらって読まれて、かつ読者の役に立たなければなりません。
報告書の種類と目的2、3、4については、報告する側と報告を受ける側との考えが一致していれば、報告者は自分が書きたいように書けばいいことになります。
むしろ、積極的に自分の意見や考えを上司や報告する相手に伝えるために、本当に書きたいことを書くべきだと思います。
しかし、報告書の種類と目的1、5については、出来るだけ多くの人、そして今だけではなく将来に渡って多くの人に役立ててもらうことを考えなければなりません。
書きたいことではなく、読んでもらう報告書、つまり読み手(お客様)を意識した社内マーケティングの思想をもって、お客様にお役立ちする報告書を書く想いが出発点にあることが重要です。
そして、報告書が読み手に伝えることが、会社にとって価値があることである必要があります。
価値を高めるためには、利用できる範囲を広げる必要があります。
特定のプロジェクトでしか使えない技術やノウハウよりも、複数のプロジェクトで使えるものの方が価値が高くなります。
多くの人が望む報告書の条件は以下のようになります。
- 現在だけでなく将来に渡って使える技術やノウハウ
- 一つのプロジェクトだけでなく複数のプロジェクトで活用できるもの
- その技術やノウハウを知ることで、読み手の困りごとが解決できるもの
読み手が自分のための報告書だとわかるようなタイトルや見出し
読み手のための報告書という意識が出来たら、次は対象の読み手に報告書の価値を伝えることが重要になります。
誰もがすべての報告書を隅から隅まで読んでいるわけではありません。
タイトルを見たとき、あるいは報告書をパッと見たときに、これは自分が読む価値のある報告書だとわかる必要があります。
そのためには、タイトル又は報告書の目立つところで、読者に伝えたいことをわからせなければなりません。
タイトルはわかりやすいですね。
あとは、見出しや冒頭の目的・背景のところで、読者を惹きつける必要があります。
タイトル、見出し、冒頭の「背景・目的」欄のいずれかに、以下の項目を含めるようにしましょう。
- 困っている、あるいは将来困るであろう人を特定できる言葉
- 困りごと、困っている状況のいくつかのパターン
- 困りごとがどうなったのか、あるいはどうなるのか
読み手に伝える一連のストーリーとして、必要な内容だけを必要な順番で書く
良く言われることですが、報告書の起承転結は大事だと思います。
書き手の言いたいことがストーリーのように、無駄なく淀みなく書かれていると、すんなりと内容が理解できると思います。
ストーリーが読めない報告書は、不必要なことがたくさん書かれています。
おそらく書き手が自分の成果をアピールしたいとか、せっかく実験したからその結果を載せたいとか、書き手の都合でストーリーを邪魔しているケースがあります。
あるいはたくさん言いたいことがあって、なるべく多くのことを書き残したいという想いから、大事な内容が薄れてしまう場合もあります。
書く内容を絞ることも大事です。
一番伝えたいことがしっかり伝わって、読み手の困りごとを解決する手伝いになるストーリーを考えて、そのストーリーに沿って出来るだけシンプルに仕上げることだと思います。
見出し(目次)を順番に読んで、それだけで報告書の格子がわかるように書くようにしてください。
見出しに沿って、AであるからBである、BであるからCである、CであるからD…というロジックでつながっていることを上司とチェックしていきましょう。
このとき、それぞれのロジックのつながりを、「なぜそうなるのか?」という'なぜなぜ'を繰り返してチェックすることと、AであればBは、もしするとEにはならないのか?というチェックもしていきます。
つまり、報告書の流れのロジックに不都合がないことを確認するのです。
最後に、報告書全体を総括して、これは結局こういうことだと、シンプルな文章で表現できれば、それは読み手に伝わる報告書であると言えると思います。
報告書は上司と部下のコミュニケーションツール
報告書の質を上げるのは、読み手にしっかりと伝え、読んだことで会社に価値を与えるものであるためだと思います。
質の高い報告書は、上司と部下のペアが作り出すべきもので、作る過程で上司と部下は深く議論をすることが出来ます。
上司は部下に答えを与えるのではなく、あくまでヒントを与えます。
部下は上司の指摘に、いっときは不満を持つこともありますが、何度も繰り返し考え、深く考えて結果的に大きな気づきを得て学習し成長していきます。
報告書の質を上げようとする行為は、強力なコミュニケーションツールであり、かつ上司から見た部下育成ツールでもあります。
さらには、上司にとっても、自身の育成にも役立つツールになるはずです。
報告書を大事にしている会社では、上司と部下、あるいは組織内の技術コミュニケーションが活性化されています。
報告書は、個人の成果という意味合いだけでなく、一つ一つの報告書を組織で作り上げて育てていくという考え方が大事なのだと思います。
それがチームの力を結集することになるということです。
報告書の書き方改善で組織改革を行う事例
トヨタ式リーン製品開発では、報告書にはA3用紙を用いて、すべてを一枚に書き切るスタイルのA3報告書を運用します。
リーン製品開発の中で、報告書は会社の知識資産を守り、活用していくツールという位置づけになります。
リーン製品開発を導入することで、必然的に報告書の書き方を改善する必要が出てきて、報告書の書き方を改善しながら組織改革を行っていきます。
2005年から約5年間をかけてリーン製品開発手法の導入を成し遂げたテラダイン・ベンソス社では、当時の社長であったRon Marsiglioのリーダーシップにより、まずはA3報告書で知識資産を蓄えて活用するという改革から着手します。
Ron社長の言葉で「A3報告書にないものは、この会社に存在しないものだ。」というくらい徹底してA3報告書を重視することから改革を進めたのです。
改革着手からおよそ5年後の2010年には、A3報告書をフルに活用した彼ら独自の開発プロセスを完成させ、結果として
- 開発期間を平均16か月から11か月に短縮(30%短縮)
- 技術者の付加価値業務比率20%から80%に改善
- 年間の離職率15%から0%
という成果を達成しました。
もちろん、報告書の改善だけが理由ではないかもしれませんが、この大改革の大きな成功要因になっています。
下図は、彼らが作り上げた開発プロセスの概要です。
トップ自ら、あるいは中間管理職が見本となって、A3報告書の書き方を学び改善することで、全社での報告書の質を改善し、報告書のデータベースと開発プロセスを密接に結びつけてルール化していったのです。
彼らの作り上げた開発プロセスは、知識を積み上げて顧客が望む製品を開発していくという意味で、'Knowledge Based Product Development(知識ベース開発)'と呼んでいます。
会社の知識を会社全体で守る、そして知識を使ってイノベーションを起こすという当たり前のことをやったに過ぎないのですが、逆に個人個人に着いている知識をバラバラのまま放置することが、いかに無駄なことであるかがわかる事例なのだと思います。
報告書の質を上げるという一見小さなテーマですが、一人一人が頑張ればいいという考えでは絶対に達成できません。
全社で取り組むこと、モチベーションを持って取り組むこと、そしてトップダウンで進めることが肝要です。
テラダインの事例では、特にトップダウンで改革を進めて大きな成果を得たことを強調しておきたいと思います。
テラダインの改革のベースになっているのは、トヨタが実践するリーン製品開発手法です。
彼らの知識ベース開発は、リーン製品開発のセットベース開発の考え方を取り入れています。
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