製品開発を改革したいというトップの想いだけで改革が進まない?!

トップが「聖域なしでの改革、革新を進めよ。」と激を飛ばせど、なぜか思うように進まない。開発手法や新しいプロセスを外部から導入して、それを取っ掛かりにした改革を進めようとすると、現場は一生懸命学ぼうとするが、どうも中間管理職が付いていけなくなっているように見える。組織全体で改革、革新を進める秘訣、特に改革の中で中間管理職をどう活かすかを知りたい。

 

リーン開発、TOC(制約の理論)、ジョブ理論などの手法を使いながら、これまで10社以上の組織改革のお手伝いをしてきて、改革をうまく進められた企業とそうでない企業の差を身をもって経験してきて、組織改革における正しいトップ、現場と中間管理職との連携の在り方について共有させていただきます。

結論から申し上げると、改革がうまく行っている企業の条件は以下になります。

  1. トップの強い意思とコミットメント(完全な支援)
  2. 中間管理職の直接参加(全ミドルが改革方針を同じレベルで理解)
  3. 現場の賛同(トップや中間管理職の方向に同意)と行動力

うまく行かない理由は様々ですが、1と3は比較的良く出来ていて、2がNGなケースが多いように感じています。

 

 

製品開発革新がうまく行かない事例

 

大手企業、海外企業などで部門責任者として製品開発に関わり、また製品開発コンサルタントとしてクライアント企業の組織改革の支援を多数行ってきて、多くの企業で成果を収めてきていますが、中には道半ばで留まってしまったり、形だけ出来たものの収益向上につながる成果まで得られないケースもありました。

うまく行かなかったケースの原因を押さえておくことで、これから改革を行う方々へのお役立ち情報としていただければと考えます。

 

間違った成果目標で進んでしまう

  1. トップの強い意思とコミットメント : 〇
  2. 中間管理職の直接参加 : ×
  3. 現場の賛同と行動力 : △

トップの想いはありながら、中間管理職が実行を現場に押し付けてしまうことで、形だけを追求してしまう結果になります。

現場の推進に対して、中間管理職は目に見える結果を要求する傾向があります。

それ自体は悪いことではないのですが、中間管理職が改革の本質を捉えないで、わかりやすい管理項目や目標を設定すると、現場でやることとトップの想いが乖離していきます。

この現象が起きるときは、現場も改革についての理解が進んでいない場合が多く、トップだけが強い想いをもっていて、それが中間管理職を通して現場に伝わらないまま、間違った目標で進んでしまいます。

例えば、リーン製品開発手法の中で、A3報告書文化を作って、技術コミュニケーションを活性化し、ベテランの暗黙知を会社の財産として蓄積し、継続的に利活用する仕組みを構築するときに、本質を理解しない中間管理職は、A3報告書の件数を管理しようとします。

A3報告書文化は、ただ報告書を書けば良いということではなく、社内で再利用できるように個々の技術者が自分で考える文化に変えること、そして一度得た知識を広く使われるように、読み手に伝えたいことを明確に伝えるトレーニングを組織的にしていかなければなりません。

報告書の書き手のスキルだけでなく、上司となる管理職が、報告書の書き方を部下に指導しながら、知識を会社の資産として残すために組織として報告書を完成させていく文化を作っていかなければならないのですが、その主旨を理解できない、あるいはそもそも、管理職自体もA3報告書文化を作るために必要な報告書を書くスキルがないとなると、改革は進まないことになります。

現場が、改革に対して強い意識があると、現場から中間管理職に対して強力な意見があがり、あとは現場と管理職との力関係になるのですが、多くの場合、現場が根負けして諦めてしまうことになります。

組織改革のため、つまり現状の課題を明確化して、課題解決のために現状をどこまで壊せるのか、例えば開発プロセスを変更したり、設計ルールを修正したりする必要があれば、管理職が中心になって変更や修正を進めなければ改革自体が止まってしまいます。

トップは聖域なく改革しろと言っているのに、管理職が本質を理解しない、あるいは傍観者になってしまうと、現状のやり方を壊せなくなり、現場が提案を上げてもただリスクを取りたくないからと却下してしまうのです。

中間管理職はトップに対して、「どうも成果が上がらないので、これ以上進めても難しい。」というような報告を上げることになります。

これは、成果が上がらないのではなく、中間管理職が目指すべき成果を履き違えているために起きる誤りだと思っています。

 

ルールや価値観を変えることへの強い抵抗

  1. トップの強い意思とコミットメント : 〇
  2. 中間管理職の直接参加 : ×
  3. 現場の賛同と行動力 : ◎

現場には改革への情熱と理解があるのに、中間管理職が改革に抵抗してしまうケースがあります。

どんな改革を行う場合でも、現状を壊すことを恐れていては改革はできません。

ただし、会社は改革だけをやっているのではなく、現状のビジネスを止めずに並行して進めながら改革を進めることになります。

トップが改革の意思を中間管理職に伝えるときには、ほとんどの場合、両方ともしっかりやりなさいと伝えます。

ここで中間管理職にジレンマが起きます。

トップの意向を汲んだ中間管理職は、既存事業と改革を両立させようと努力はしますが、限られた戦力、限られた時間で自分自身の成果を明確に出すために追い込まれて優先順位をつけざるを得なくなります。

既存事業のQCD目標は明確であり、また、これを達成しないことは会社の収益に直結します。

一方、改革はQCD目標はあったとしても、もともと不確定要素が多く、目標の修正にも寛大であると思い込みます。

また、改革による収益改善も、もちろん重要だとは認識していても、既存事業の遅れや失敗よりは緊急度が低いと勝手に解釈してしまいます。

もし、中間管理職に既存事業をやっている部下と、改革をやっている部下がいるとすると、どうしても既存事業側に寄った采配をしてしまいます。

既存事業のリソース不足を改革メンバーから補おうとする動きも出やすくなるというのが、実情ではないでしょうか。

このことは、中間管理職ばかりを責められない面もあって、本来は、改革や新規事業、新たなチャレンジをする場合は、既存事業の価値観とは異なる状況で実施すべきなのかもしれません。

改革や新たなチャレンジには、ルール変更が付きものです。

既存事業に優先度があると感じる中間管理職に、ルール変更や価値観の修正は負担が大きすぎるのかもしれません。

このようなケースが起きるのは、改革チームを専門に指揮するトップ直結の管理職を置いていないということが主な原因だと思われます。

トップの想いで改革チームを組織し、モチベーションを与えて活動も活発になり、提案も多数でてくるのですが、既存事業と掛け持ちしている中間管理職によって、改革チームからの提案が潰されてしまいます。

ある意味、トップの責任も大きいのかもしれません。

 

 

製品開発革新を進めるための組織作りと中間管理職の役割

 

製品開発革新、組織改革を本気で進めるためには、組織と人材が重要だと思います。

歴史的な事例では、島津斉彬と西郷隆盛のような組織と人材でしょうか。

斉彬のビジョンと、西郷の改革を邪魔する抵抗勢力との闘いは、現代の企業改革でもとても良い見本となると思います。

また、1970年代、日本企業の大多数がTQCによる改革を会社を挙げて実施していたやり方も多いに参考になると思います。

と言っても、1970年代に企業に勤めていた人は、もはや現役で企業に残っていませんね。

簡単に言うと、まさに全社を挙げての活動で、社長以下、役員も全員がTQCを学びリードします。

私のいた企業でも、デミング賞にチャレンジするために、TQC推進部門を設置して、そこに若き優秀なリーダーを配置して、トップが全面的に支援します。

役員クラスの講話はほぼすべてTQCに関連するもので、トップ、中間管理職、そして現場までが同じ想いで、熱狂的にTQCによる改善活動を続けます。

一種の宗教のような様子だったと思われます。

しかしこれこそが、全社一丸となった改革になり、1980年代に日本製品が世界を席巻するという一時代を作っていったのです。

良い見本をより具体的なものとして、また中間管理職が中心になってトップとともに行うべきこと、役割について説明していきます。

 

ひとつの宗教を設定し、トップダウンで学ぶ

もっとも重要なことは、トップ、中間管理職、現場、すべての社員が同じ方向を向いて進むことだと考えています。

そのために、ひとつの公知の手法やツールを宗教のような位置づけで設定することが有効だと思っています。

弊社はリーン製品開発手法、TOC(制約の理論)、ジョブ理論など新しいマーケティング手法を活用しながら、企業ごとの課題に合わせて組織改革をお手伝いしていますが、世の中にある様々な手法はどれも本質的なところは同じだと感じています。

つまり、どの手法やツールも、形やプロセス、手順などは違うものの「当たり前のことを実直にやること」をサポートしているのだと思っています。

なので、どんな手法やツールでも構いません。トップが信じた手法をひとつの手掛かりにして、全社改革を進めましょう。

トヨタ製品開発、トヨタ生産システム、TOC(制約の理論)、ジョブ理論、マーケティング3.0(4.0)、デザイン思考など、効率向上、イノベーション促進などのための手法はたくさんあります。

ひとつを柱にしつつ、他の手法の本質も見ながら、全員が学んで実践することで、会社を根本から変革していきましょう。

このとき、私が勧めるのは、トップから順番に学んでいくことです。

これ、結構大事だと思うし、1970年代のTQCもこうであったと認識しています。

トップが学び、トップが語り、それを中間管理職が聞いて自ら学び、それを現場に対して語る。最後に現場がトップと中間管理職が同じメッセージを発しているのを理解して、賛同して必死で学んで実践するという流れを作ることが大切です。

失敗事例の中で、中間管理職がどうもよくない状況を作り出しているように見えていますが、これはトップは大雑把にしか学ばず、それを現場に学んで実践しろという指示になって、中間管理職が置いてきぼりになっているからだと私は思っています。

先に学べば、学びが深いわけではありませんが、学びの深さを下位の人たちと競争するくらいの気持ちで全社が改革を進めることが出来れば、成功確率は大きく跳ね上がることと思います。

 

モデルプロジェクトにエースを投入し隔離せよ

私の持論ですが、イノベーションは亜流組織から起きる、ということがあります。

これはごく簡単に言うと、従来の価値観を捨てやすいからです。

トップの立場に立つと、改革は既存事業を進めながら行わなければなりません。

改革を行うモデルプロジェクトを設定し、モデルプロジェクトの専任チームを組織します。

このとき、既存事業の価値観を跳ね返すことが出来る組織でなければ、成功はおぼつきません。

将来の西郷隆盛ではありませんが、エース級を投入し、さらにトップと直接コミュニケーションが取れて、他の中間管理職の抵抗と戦える部長クラスを配置してください。

さらに大事なことは、このモデルプロジェクトを他の組織から完全に隔離してください。

隔離するとは、同じ組織構造の中にチームを置かないこと、人材の流動、貸し借りなどを完全に断つこと、成果を同じ土俵で比較しないことです。

メンバー構成、選定も大切です。

できるだけ将来性のある若手を中心にして、ただし、このチームだけですべてを完結できるように(ちょっと頑張ったうえで)、保守的ではないベテランを何人か配置して、OJTで若手育成が完成するようにします。

メンバー集めの段階で、すでに既存事業との闘いが始まります。

必要なメンバーを集めるために、トップの直接の関与も必要だと考えます。

 

モデルプロジェクトの結果を標準化する

モデルプロジェクトの実行は、製品開発革新の入り口に過ぎません。開発プロセスやルール変更に関する仮説検証をしていき、成果を追及します。

モデルプロジェクト実行中は、他の既存組織と隔離することで、既存事業のルールや価値観に縛られないようにしますが、モデルプロジェクト完了後は、仮説検証の結果を使って全社のルールに変えていかなければなりません。

そのためには、モデルプロジェクトの仮説検証をしっかりと記録することと、仮説検証に関する考察をオープンにしていく必要があります。

プロジェクトリーダーと数人のキーマンと、既存事業のプロセスを管理している組織の代表とともに、新しいルール、開発プロセスを設計し、文書化していきます。

世の中の手法やツールは、純粋な”理論”がベースになっている場合がほとんどです。

現実的に実現するためには、その企業特有のアレンジが必要です。

企業のこだわりや、特別な事情を考慮した現実的なプロセスやルールを制定していきます。

場合によっては、一回だけのモデルプロジェクトからすぐに標準化は難しいかもしれず、その場合はもう一度モデルプロジェクトを走らせる必要があるかもしれません。

その当たりの計画や決断も中間管理職とトップが一体になって行う必要があります。

 

参考記事: 「組織マネージャーに戦略思考を身につけさせる方法

 

まとめ

製品開発革新、組織改革における陥りやすい失敗事例と、全社で同じ方向を向いて開発革新、改革を成功させるための組織作り、管理職やトップの役割についてお話ししてきました。

日本企業は、トップ、中間管理職と現場の3つが欧米企業に比べると、くっきりと分かれています。

階層が深くて複雑ということなのですが、開発革新や組織改革には、3つの階層を含めて全社員が一丸となって進めるための政治的な誘導が必須だと思っています。

特に上から順に学ぶというのは、地味なようですが、改革を促進する政治としては重要なポイントです。

イノベーションを起こせる企業への変革にチャレンジしてください。

 

参考記事:

フューチャーシップ開発プロセス革新の進め方と必要期間

優秀なプロジェクトマネージャーを継続的に生み出す方法

 

弊社では、製品開発革新、開発プロセス改革などを最後まで伴奏する形で支援しています。

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