ヒット商品を出すために、顧客の潜在ニーズをどうやって掴んだらいいか?!
既存事業も永遠に安定というわけにもいかない。新しいコンセプトの製品を開発していきたいが、顧客が直接言うような要求は誰でも知っていることで、顧客も気づいていない潜在ニーズを見つけて製品の差別化を図て行きたいが、具体的にどうやって潜在ニーズを掴むか、その見つけ方を知りたい。
トヨタ式リーン製品開発手法にマーケティング理論の要素を加味して、独自の開発手法で新規事業立ち上げ支援、新製品開発のための組織改革を実践してきた経験から、潜在ニーズを掴んでイノベーションを起こす効果的な方法について共有させていただきます。
製品開発の最大の目的は、顧客価値を生み出し企業が利益を上げることです。新しい技術を生み出すことはそのための手段に過ぎません。
新たな顧客価値を生み出すことが競争の本質であって、他社が気づいていない、そして顧客自身も気づかない潜在ニーズを掴むことが競争に勝つための必須条件となっているのです。
結論から申し上げると、潜在ニーズを掴むために使う手法、ツールは以下のようになります。
- ジョブ理論を活用したフレームワーク
- デザイン思考を応用した行動のバグ探し
- エスノグラフィー
個々の方法について説明していきます。
本記事の内容
- 顧客視点という言葉を深堀りする
- 顧客の潜在ニーズを見つける3つの方法
- ジョブ理論を活用したフレームワーク
- デザイン思考を応用した行動のバグ探し
- エスノグラフィー
- まとめ
顧客視点という言葉を深堀りする
顧客視点という言葉は、今は当たり前のように使われていますが、その意味は良く考えてみる必要がありそうです。
顧客の立場に立って考える、だから顧客に寄り添い顧客に訊けばいい、ということで顧客の声を直接聞いて製品開発に活かすことも顧客視点です。
この場合は、顧客の要望や想いは顕在ニーズと呼ばれ、言ってみれば誰でも知ることができる情報ということになります。
つまり頑張って顧客の声を聞いても、それは競合の聞ける情報なのです。
そうは言っても顧客の声も企業にとっては非常に重要です。
ハーバードビジネススクールのクリステンセン教授が書いた「イノベーションのジレンマ」という本では、大企業が顧客の声を聞きながら製品を少しずつ進化させることを持続的イノベーションと表現し、それ自体は悪いことではないが、あるとき既存顧客を持たない新興企業が破壊的なイノベーションで既存事業の土台をひっくり返してしまうリスクが説明されています。
この破壊的イノベーションを起こす元になるのが、顧客の潜在ニーズではないでしょうか?
新しい市場を創る、新たなコンセプト製品によって大きなヒット商品を狙う、新規ビジネスに参入するということは、顧客の潜在ニーズを掴んだうえで、新しい文化を生み出すことなのだと思います。
顧客の潜在ニーズを見つける3つの方法
顧客にアンケートを取ったり、直接インタビューしても、誰も知っている常識的な要求しか引き出せないというのが多くの企業の悩みです。
顧客のダイレクトボイスを聞き過ぎると、それは誰でも知っているニーズを追いかけることになり、結局は価格競争になってしまいます。
顧客も気づかない、顧客が本当に望んでいるものを見つけることができれば、競合に大きな差をつけることが出来ます。
そのための一つのヒントは、開発者が一旦製品を離れて、本当の意味で顧客側から顧客のやりたいことを考えることなのですが、技術者はなかなか製品を頭から切り離すことは出来ないのではないでしょうか?
製品軸を離れ、本当の意味で顧客視点で潜在ニーズを見つけるためには、何かフレームワークや手法によって誰でも製品軸を離れやすいようにすることが良い方なのだと思います。
いくつかの手法について説明していきます。
ジョブ理論を活用したフレームワーク
まずは、ハーバードビジネススクールのクレイトン・クリステンセン教授が提唱していることで知られるジョブ理論というものがあります。
マーケットインをより進化させたものという位置づけで、顧客のダイレクトボイスを聞くのではなく、顧客の片づけるべき仕事(Jobs to be done)を探すことで、顧客自身も気付いていない顧客の変化への欲求を見つけ出そうとする考え方です。
アメリカでは、単なるマーケティングツールとしてだけでなく、新規事業創出や、起業家のための手法としても活用され始めています。
クリステンセン教授の「ジョブ理論」は、日本でも出版されています。この本の原タイトルは、”Competing Against Luck”ということで、つまり、多くのイノベーションや事業成功は、たまたま幸運によってうまく行ったことが多く、実はイノベーションを起こす仕組みは解明されていない、という前提で、今までのマーケティングの考えでは、イノベーションの本質は捉えらず、JTBDによってそれが解明できる、という論理になっています。
ジョブ理論、JTBD法は、顧客価値を創り出すという意味で非常に興味深い考え方を示していますが、まだフレームワークとして落としきれていないため、実際に活用するためには、手法の本質を捉えて、それを自社の状況に合わせて実践していかなければなりません。
一方、クリステンセンのジョブ理論よりも前に、Anthony Ulwickは、Jobs to be done (JTBD)によるイノベーションの方法を発表しています。
こちらも顧客のジョブを捉えるという意味では同じ考え方ではありますが、こちらは製品をある程度意識して、製品を使った顧客のジョブを定義するフレームワークを定義しています。Ulwickの手法は、アウトカム・ドリブン・イノベーションとも言われています。
フューチャーシップは、JTBDを2段階のレベルに分けて、Ulwickの唱える、より製品開発に近いものをJTBD-P(ProductのP)と呼んで、製品の機能をジョブとして捉えることで潜在ニースを探索していきながらヒット商品を生み出す方法と、ジョブをもっと抽象的に捉え、人々の生活を進化させる欲求を探しながら、新しいコンセプトを導き出してイノベーションを起こそうとするJTBD-B(BusinessのB)と呼ぶ方法を状況によって使い分けます。
弊社は、顧客起点の考え方を上図のように4段階で捉えていて、一番下が技術主導のプロダクトアウト、そこからマーケットインの考え方になって、さらに製品の機能的なジョブを捉えるJTBD-P手法、さらに進んで情緒的なジョブまで含んだ人間の欲求を捉えるJTBD-Bという進化を定義しています。
これらを状況に応じて使い分けることが重要と考えています。
2種類のジョブ理論(JTBD-PとJTBD-B)については、下記の記事で詳細を説明しています。
参考記事:2種類のジョブ理論を使いこなす
また、JTBD-Bについては、弊社独自のフレームワークを開発し、クライアント企業に提供しています。
詳しくは下記をご参照ください。
参考記事:ジョブ理論を実践するためのフレームワークを教えます
ジョブ理論のフレームワークをごく簡単にその手順を説明しておきます。
- 顧客の行動をストーリーとして捉え、ジョブの繋がりを定義する
- 各ジョブに対する現状存在するソリューションをマップ化
- ソリューションマップから関連する事業構造をマップ化
- 各ソリューションに対する顧客の課題を抽出
- 抽出された課題に対する新たなソリューションのアイデアを出す
このフレームワークを「マーケティング思考力強化セミナー」で体験していただけます。
デザイン思考を応用した行動のバグ探し
デザイン思考は、もともとは工業デザイン、つまりモノの視覚的な設計についての考え方として生まれたのですが、今では様々なビジネス上で活用できるものとして、また顧客起点でイノベーションを起こすための手法、考え方として広く普及しています。
デザイン思考は、デザイン制作における思考法を活用して、ビジネスや経営に活かしていくアプローチであり、「顧客も気づかない本質的なニーズを見つけ、ものごとを変革させるイノベーション思考法」と言えます。
有名なところで、ハッソ・プラットナー教授の提唱する「デザイン思考の5段階」が参考になります。
- 共感
「顧客視点」とか「顧客への共感」というレベルではなく、本当に自分が顧客の立場になり切ってそこからの景色を見ることが大切です。 - 定義
表面的なニーズで留まるのではなく、なぜそのニーズが必要なのか、根本にある課題を定義していきます。 - 概念化
定義された根本の課題に対して、ブレーンストーミングなどでアイデアを表現します。 - 試作
概念化したものを実装していきます。 - テスト
試作したものを実際の市場に持って行って評価します。
この5段階を考えたときに、1、2のレベルアップを図ることが成功の鍵だと思います。
顧客に成り切るための方法として、顧客の行動をストーリー化することが推奨されます。
ストーリーをビデオ動画を観るようにして頭の中で再現することで、行動のバグを見つけていって、2の根本的な課題抽出ができるようになります。
デザイン思考でのバグ探しについても、前述の「マーケティング思考力強化セミナー」で体験いただけます。
エスノグラフィー
エスノグラフィー(ethnography)は、もともと文化人類学や民俗学などで使われる研究方法、調査方法であって、観察やインタビューを使って対象を理解するための方法論です。
エスノグラフィーは、デザイン思考と一緒に語られることも多く、最近ではメーカー企業でもイノベーション促進のために取り入れる企業が増えています。
ビジネスでのエスノグラフィーのやり方は、
- 現場観察(いない人になって観察)
- 記録を持ち帰ってチームで議論
- アイデア出し
大まかにいうとこのような手順で進めますが、当然、顧客の絶大な協力が必要です。
観察そのものにもノウハウが必要で、特に人間の認知バイアスをどう排除するかが鍵になります。
認知バイアスとは、以下のようなものです。
- 認知的不協和
自分を正当化する - アンカリング効果
基準に引っ張られ、特定情報を重視 - 確証バイアス
都合の良い事実しか見ない、思い込み - フレーミング効果
表現によって印象が変わる - ハロー効果
目立つ部分しか目に入らない - 観察者効果
見られていることを意識する
行動観察を行う上での注意ポイントは以下になります。
- 仮説は捨てるためにある、強すぎる仮説はNG
- 居るけど、居ない人になる
- 「事実」のみを記録
- 目の前のことを当たり前と思わない
- その場で解決策を考えない
- 顧客の行動には必ず理由がある
- 顧客の言葉を鵜呑みにしない
- フィルターがかかることを自覚する
- 全体と部分を意識する、1点に集中しない
行動観察は、インタビューとは相互補完の関係として、行動観察で得た気づきを改めて顧客にインタビューすることで気づきを確認していきます。
エスノグラフィーとデザイン思考とが組み合わさることで、イノベーションを起こす組織に変えていくことができるはずです。
参考記事: 「マーケティングを勉強し実践する3つのキーポイント」
まとめ
ジョブ理論、デザイン思考、エスノグラフィーという3つの手法を使った潜在ニーズの見つけ方について説明してきました。
お気づきのことと思いますが、それぞれでの手法は、お互いに密接に関連していて、また共通の本質があります。
共通の本質は、顧客の行動をストーリーとして捉えるということです。
顧客の行動には必ず理由があり、また、顧客の行動の中に顧客の思い込みがあります。
現状を受け入れているのですが、本来、受け入れたくないものを受け入れています。
人間は、思い込みの塊であって、強い認知バイアスを持っています。
顧客の認知バイアスを通った行動を、認知バイアスを排除して捉えることが出来れば、顧客の本当に求めるものが見つかります。
顧客の行動や欲求をジョブとして捉えたのがジョブ理論であり、デザイン思考とストーリーを結び付けてバグを見つける考え方に発展させ、さらにバグを見つけるための行動観察をしっかりと行うことで、イノベーションの確率を上げていきしょう。
弊社が進める製品開発革新は、トヨタの開発手法であるリーン製品開発を軸にしつつ、ジョブ理論やデザイン思考などの真の顧客視点でイノベーションを起こすためのフレームワークも取り入れることで、継続的に勝ち続けられる製品開発を行う組織体制、開発プロセスを創造することができる改革手法になっています。
ご興味があれば、お気軽にお問合せいただくか、弊社主催の「製品開発革新セミナー」にご参加ください。
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